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大転職時代におさえておきたい改正職業安定法の改正ポイント

 

 

プロコミットパートナーズ法律事務所、弁護士の佐藤朋征です。
今日ではキャリア形成において「転職」をすることも一般的ですが、就職や転職活動をするにあたり求人サイト等インターネット上のサービスを利用することが主流となっています。ベンチャー企業においても、求職・求人に関する情報を掲載し、求人者と求職者をマッチングするサービスを展開する企業も多く、就職や転職について様々な選択肢を広く提供しています。
このような求職活動の変化に応じて、令和4年3月31日に公布された「雇用保険法等の一部を改正する法律」のうち、職業安定法(以下「法」といい、今回の改正に伴い新設又は変更されたものを「改正法」といいます。)に関する改正が一部を除き令和4年10月1日に施行されました。今回の法改正は、主にインターネットを利用した求職活動の環境整備、そして求人メディア等のマッチング機能の質の向上を目的としており、多種多様化する求人メディア等に対して規制対象を拡大する趣旨で「募集情報等提供事業」の範囲が拡大されました。これにより今まで規制対象ではなかった求人メディアにも規制が及ぶことになります。また、規制内容も強化され、具体的には、求人等に関する情報の的確な表示の義務化、個人情報の取扱いに関するルールの整備等が定められました。これにより今まで規制対象ではなかった求人メディア等も職業安定法の規制への対応を迫られることになり、人材メディアや人材プラットフォームを運営する事業者には看過できない内容となっています。そこで、募集情報等提供の拡大と規制内容の強化を中心に改正職業安定法について解説したいと思います。

1 募集情報等提供の拡大

⑴ 職業紹介と募集情報等提供
就職や転職に関して、職業安定法上の「職業紹介」(法第4条第1項)、すなわち求人及び求職の申込みを受け求人者と求職者との間における雇用関係の成立を斡旋することを事業として行う場合、職業安定法上の許可を取得して実施する必要があります(法第30条第1項、第33条第1項)。当該許可を得るためには、例えば、事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること(法第31条第1項第1号)等の一定の許可基準を満たす必要があり、企業によってはそこそこハードルが高いものではあります。また許可を取得した後も、職業安定法及び同法に基づく厚生労働省の指針(※1)(以下「指針」といいます。)に基づき規制を遵守して運営を行う必要があります。
他方、職業紹介と似て非なるものとして、「募集情報等提供」があります(法第4条第6項)。これは、雇用関係の成立の斡旋と評価されるほどの関与はしないものの、求人者や求職者の依頼を受けて募集情報や求職者の情報を、求職者や求人者に提供する行為をいいます。募集情報等提供について、職業安定法上の許可をはじめ職業紹介事業者に対する規制は適用されません。これまで多くの求人メディアは、この募集情報等提供行為として特段許可を得ることなく運営されてきました。
このような許可を要する「職業紹介」と、許可が不要とされる「募集情報等提供」については、従前から厚生労働省が指針において区別の基準を定め、これにより区別がなされてきました。
今回の改正に合わせて、この基準も改正されました。具体的には指針において、以下の➀と➁の内容が明記されるに至りました(指針第6の6・(2))。

  • ①次のいずれかに該当する行為を事業として行う場合は、当該者の判断が電子情報処理組織により自動的に行われているかどうかにかかわらず、職業紹介事業の許可等が必要であること。
    イ 求職者に関する情報又は求人に関する情報について、当該者の判断により選別した提供相手に対してのみ提供を行い、又は当該者の判断により選別した情報のみ提供を行うこと。
    ロ 求職者に関する情報又は求人に関する情報の内容について、当該者の判断により提供相手となる求人者又は求職者に応じて加工し、提供を行うこと。
    ハ 求職者と求人者との間の意思疎通を当該者を介して中継する場合に、当該者の判断により当該意思疎通に加工を行うこと。
  • ➁また、宣伝広告の内容、求人者又は求職者との間の契約内容等の実態から判断して、求人者に求職者を、又は求職者に求人者をあっせんする行為を事業として行うものであり、募集情報等提供事業はその一部として行われているものである場合には、全体として職業紹介事業に該当するものであり、当該事業を行うためには、職業紹介事業の許可等が必要であること。
今後は上記の➀と➁に照らして、職業紹介に該当するか、募集情報等提供に該当するか判断することになります。

ただ、募集情報等提供事業者も職業安定法や指針において何らの規制もないわけではなく、求職者の個人情報を個人情報保護法に照らして安全管理する等の一定の義務、後述の【従来の規制で維持されたもの】に記載のように、募集情報に関する確認と訂正の求めへの対応等一定の義務は課されていましたが、今回の改正で義務とされた苦情処理の体制整備のような事項は努力義務に留まっていました。

⑵ 募集情報等提供の範囲の拡大
ところで、今日では、求人者や求職者からの依頼を前提としない求人サービスとして、例えば、以下のようなものが登場しています。

  • ビジネスSNS
    ビジネスに関する情報収集・発信や人材交流に特化したSNS。求職者である個人においては経歴等のキャリアに関する情報を登録・投稿し、求人企業へのPRやスカウトの誘引等にも利用されます。
  • クローリング型求人メディアやクローリング型人材データベース
    各社の採用ホームページや求人サイトの求人情報又は求職情報を収集・集約(クローリング)し、収集した情報を求職者に提供するクローリング型求人サイト(アグリゲーター型求人サイト)や、逆に求職者に関する情報を、ビジネスSNS等のインターネット上の公開情報等からクローリング等の方法により収集し、求人企業に提供する人材データベースサービス。

また、現在の求人メディア等では、求人企業や求職者ではなく、職業紹介事業者や他の求人メディア等から求人情報や求職者情報の提供の依頼を受け、これを提供することも多く行われています。

改正前の職業安定法では、募集情報等提供の定義は、求人者(求人企業)又は求職者の依頼を受けて、求職者又は求人者に対して、求人者や求職者に関する情報を提供するものとされていました。上記の新しいサービスは、いずれも求人者や求職者の「依頼」を受けて行われるものではなく、提供先も求人者や求職者ではないケースもあることから、募集情報等提供にさえ該当せず、職業安定法及び指針の適用が無いものも多く存在していました。

今回の改正では、まず募集情報等提供の定義が改正され、これまで対象外であった上記のサービスも募集情報提供行為として整理されます。

ア ビジネスSNS等の包含
募集情報等提供の定義の内、「依頼」の主体を求人者、求職者だけでなく、職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者、職業紹介を行う地方公共団体及び労働者供給事業者等にまで広げ、また提供先も職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者、職業紹介を行う地方公共団体及び労働者供給事業者にまで広げる改正がなされました(改正法第4条第6項第1号、同第4条第6項第3号、同施行令第4条)。
これにより、SNSの形態であっても、求人募集に関する情報や登録されたプロフィール等を労働者になろうとする者に関する情報として表示し、それを求人企業等が閲覧することを前提としているものに関する情報を投稿・表示することを前提としているものは募集情報提供に該当します。

イ クローリング型求人サイトの包含
労働者の募集に関する情報を、労働者になろうとする者の職業の選択を容易にすることを目的として収集し、労働者になろうとする者だけでなく、職業紹介事業者や募集情報等提供事業を行う者に提供することまで広げる改正がなされました(改正法第4条第6項第2号)。
これにより、求人・求職に関するサービスとして、労働者の募集に関する情報をクローリング等の方法で収集し、労働者になろうとする者や職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者に提供するクローリング型求人サイトも募集情報等提供に該当します。

ウ クローリング型人材データベースの包含
労働者になろうとする者に関する情報を、労働者の募集を行う者の必要とする労働力の確保を容易にすることを目的として収集し、労働者の募集を行う者だけでなく、職業紹介事業者や募集情報等提供事業に提供することまで広げる改正がなされました(改正法第4条第6項第4号)。
これにより、求人・求職に関するサービスとして、労働者になろうとする者に関する情報をクローリング等の方法で収集し、労働者になろうとする者や職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者に提供するクローリング型人材データベースも募集情報等提供に該当します。

このように、ビジネスSNSでの求人求職情報掲載や、クローリング型の求人サイトや人材データベースも募集情報等提供として、職業安定法や指針の規制を受けることになります。

2規制内容の強化

このように募集情報等提供事業者として規制が及ぶ範囲自体が拡大したのですが、それだけでなく職業安定法上の規制対象業種、すなわち職業紹介や募集情報等提供を事業として営む者に対する規制も改正されました。かなり細かな内容もありますので、以下では概要に絞りご説明いたします。

これまで、職業紹介事業者や労働者供給事業者等の職業安定法の一部の規制対象業種(以下、便宜上「職業紹介事業者」といいます。)にのみ適用されていた規制が、募集情報等提供事業にも一部適用されることになりました。また、職業紹介事業者、募集情報等提供事業者に共通して適用される新たな規制も追加されました。

⑴ 求人情報等の的確表示規制

ア 虚偽又は誤解を生じさせる表示の禁止
職業紹介事業者や募集情報等提供事業者は、求人等に関する情報(求人情報、求職者情報、求人企業に関する情報、自社に関する情報、事業の実績に関する情報)を広告する場合、当該情報について、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはなりません(改正法第5条の4第1項)。指針においては、特に、以下のような点に留意する必要があるとされています(指針第4の2)。

①関係会社を有する者が労働者の募集を行う場合、労働者を雇用する予定の者を明確にし、当該関係会社と混同されることのないよう表示しなければならないこと。
②労働者の募集と、請負契約による受注者の募集が混同されることのないよう表示しなければならないこと。
③賃金等(賃金形態、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給、固定残業代等に関する事項をいう。以下同じ。) について、実際の賃金等よりも高額であるかのように表示してはならないこと。
④職種又は業種について、実際の業務の内容と著しく乖離する名称を用いてはならないこと。

イ 情報の正確性、最新性の保持
労働者を提供する企業は、求人等に関する情報について、正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければなりません(改正法第5条の4第2項)。具体的には、以下のような措置を講じる必要があります(指針第4の3)。

①労働者の募集を終了した場又は労働者の募集の内容を変更した場合には、その募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又はその募集に関する情報を速やかに変更するとともに、その情報の提供を依頼した募集情報等提供事業を行う者に対して、その情報の提供を終了するよう依頼し、又は当該情報の内容を変更するよう依頼すること。
②労働者の募集に関する情報を提供するに当たっては、情報の時点を明らかにすること。
③募集情報等提供事業を行う者から、法令に基づき当該募集に関する情報の訂正又は変更を依頼された場合には、速やかに対応すること。

また、職業紹介事業者や募集情報等提供事業者は、提供する求人等に関する情報について、正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければなりません(改正法第5条の4第3項)。

この正確かつ最新の内容に保つための措置は、上記の募集情報等提供事業者の各類型に共通の措置、類型ごとに求められる措置に分かれています(改正法施行規則第4条の3第4項、指針第4の4)。

【すべての事業者において共通して取るべき措置】
求人等に関する情報の提供者や情報を提供されている求人企業・求職者から、掲載の中止や内容の訂正の依頼があった場合には、速やかに対応する。また、正確かつ最新の情報でないことを自ら確認した場合には、速やかに内容の訂正の依頼又は掲載の中止を行う(同規則第4条の3第4項第1号、第2号)。

【職業紹介事業者において取るべき措置】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号イ)。
・求人者又は求職者に対し、定期的に求人又は求職者に関する情報が最新かどうかを確認する。
・求人又は求職者に関する情報の時点を明示する。

【改正法第4条第6項第1号に該当する募集情報等提供事業者】 以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ロ)。
・募集者等に対し求人が充足したときや内容を変更したときには、労働者の募集に関する情報の提供を依頼した者に対し、速やかに通知するよう依頼する。
・労働者の募集に関する情報の時点を明示する。

【改正法第4条第6項第2号に該当する募集情報等提供事業者】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ハ)。
・労働者の募集に関する情報を、定期的に収集・更新し、その頻度を明確にする。
・労働者の募集に関する情報を収集した時点を明示する。
【改正法第4条第6項第3号に該当する募集情報等提供事業者】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ニ)。
・労働者になろうとする者に関する情報の提供を依頼した者に対し、情報を正確かつ最新の内容を保つよう依頼する。
・労働者になろうとする者が情報を提供・更新した時点を明示する。
【改正法第4条第6項第4号に該当する募集情報等提供事業者】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ホ)。
・労働者になろうとする者に対して、情報を正確かつ最新の内容を保つよう依頼する。
・労働者になろうとする者が情報を提供・更新した時点を明示する。

ウ 罰則規定
上記に違反し、虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を提示して、募集情報等提供を行い、又はこれらに従事したときは、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(改正法第65条第9号。なお、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、当該違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科せられます(法第67条)。)。

⑵ 特定募集情報等提供事業者に対する特別の規制

ア 特定募集情報等提供について
募集情報等提供事業者のうち、求職者(労働者になろうとする者)に関する情報を収集して行うものについては、「特定募集情報等提供」を行う事業者(以下「特定募集情報等提供事業者」といいます。)として分類され(改正法第4条第7項)、求職者保護の観点からより強い規制が課せられます。

イ 届出義務
まず、事業開始にあたり所定の事項の届出が義務付けられます(改正法第43条の2第1項)。届出は、厚生労働省が法改正に伴い定められた「募集情報等提供事業の業務運営要領」(※2) 上様式が決められており、原則としてe-Gov電子申請(※3) を通じて行われるものとされています(業務運営要領第2の1(1)ロ)。これについては厚生労働省が記載要領(※4)を公開しているので、こちらに従い届け出ることが考えられます。また、届出事項に変更がある場合や事業廃止の場合も届出が必要です。

この届出義務については、懈怠した場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(改正法第65条第7号。なお、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、当該違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科せられます(法第67条)。)。

ウ 特定募集情報等提供事業者による事業概況報告書の提出義務
特定募集情報等提供事業者は、毎年8月31日までに、6月1日時点における事業の実施の状況について、募集要項記載の特定募集情報等提供事業概況報告書(様式第8号の6)を作成し、厚生労働大臣に提出する義務を負います(改正法第43条の5、同施行規則第31条の3第1項)。これについても原則として電子政府の総合窓口e-Gov電子申請を通じて行われるものとされています(業務運営要領第2の2)

エ 特定募集情報等提供事業者の報酬受領禁止
特定募集情報等提供を行う事業者は、情報の提供に関して、名義を問わず、募集に応じた労働者から報酬を受領してはならないとされています(改正法第43条の3)。

オ その他の規制
上記のとおり、特定募集情報等提供事業者については、求職者保護の観点から、他の募集情報等提供事業者よりも強い規制が課せられます。その関係上、⑶で述べる求職者の個人情報の取扱いに関する規制も適用されます。

⑶ 個人情報の取扱いの整備

募集情報等提供事業者も、職業紹介事業者と同様、個人情報保護法上の個人情報取扱事業者として、同法に従い求職者や労働者になろうとする者等の個人情報(以下「求職者等の個人情報」といいます。)を取り扱う義務があります。
職業紹介事業者は、個人情報保護法に加え、職業安定法及び指針に基づく規制に従い個人情報を取り扱う義務があるとされていますが、この規制対象に特定募集情報等提供事業者も含まれることになります(改正法第5条の5第1項)。

ア 個人情報の収集、保管及び使用に関する規制
従前より、求職者等の個人情報について、職業紹介等の業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・使用・保管しなくてはならないとされていました。これに加えて、今回の改正により、収集する際に事前に当該利用目的を明示しなければならないことになります。明示方法については、インターネットの利用その他適切な方法によるものとされています(改正法施行規則第4条の4)。また、明示の程度については、当該情報がどのように保管され、又は使用されるのか、労働者になろうとする者が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示する必要があり、業務運営要領では「漠然と「募集情報等提供事業のために使用します。」と示すだけでは足りず、例えば、「求人情報に関するメールマガジンを配信するため」や「会員登録時に入力いただいた情報を、希望した条件に合致する企業に提供するため」と示すといったことが考えられる。」とされ、ある程度具体的な用途を示す必要があります(業務運営要領第3の3・(1)・イ)。

また、以下のような求職者等の個人情報の取扱いを行う場合、同意なく行うことはできません(改正法第5条の5第1項、指針第5の1 なお、同意を取得する場合には指針第5・1・㈥の内容に従い行う必要があります。)。
・業務の目的の達成に必要な範囲を超えて、求職者等の個人情報を収集・使用・保管すること
・原則として収集してはならないこととされている個人情報について、特別な職業上の必要によって本人から収集すること
・個人情報を第三者から収集すること

その他にも、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項その他職業安定法や指針上禁じられる情報の収集をしないこと等といった職業安定法及び指針の規制も遵守する必要があります。

イ 個人情報の適正な管理
取得した個人情報の管理に関しても以下のような改正が行われ、職業紹介事業者、特定募集情報等提供事業者問わず遵守する必要があります(改正法第5条の5第1項、指針第5の2)。
①保管又は使用に係る措置として以下を講ずるとともに、求職者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明しなければならない。
・ 個人情報を目的に応じ必要な範囲において正確かつ最新のものに保つための措置
・ 個人情報の漏えい、滅失又は毀損を防止するための措置
・ 正当な権限を有しない者による個人情報へのアクセスを防止するための措置
・ 収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置
②求職者等の秘密に該当する個人情報を知り得た場合には、当該個人情報が正当な理由なく他人に知られることのないよう、厳重な管理を行わなければならない。
③次に掲げる事項を含む個人情報の適正管理に関する規程を作成し、これを遵守しなければならない。
・ 個人情報を取り扱うことができる者の範囲に関する事項
・ 個人情報を取り扱う者に対する研修等教育訓練に関する事項
・ 本人から求められた場合の個人情報の開示又は訂正(削除を含む。以下同じ。)の取扱いに関する事項
・ 個人情報の取扱いに関する苦情の処理に関する事項
④本人が個人情報の開示又は訂正の求めをした場合、これを理由として、当該本人に対して不利益な取扱いをしてはならない。

⑷ その他募集情報等提供事業者共通の規制

ア 募集情報等提供事業者の責務
募集情報等提供事業について、事業を行う上で履行するべき事項が従前より定められていましたが、以下のように拡充されています。

【従来の規制で維持されたもの】
(ア) 募集情報が次のいずれかに該当するときにおける情報の提供を依頼した者に対して変更依頼をするか又は広告等を中止しなければなりません。また、次のいずれかに該当するおそれがあるときは、情報の提供を依頼した者に対して確認を⾏い、又は情報の提供を中止しなければなりません(改正法第43条の8、指針第8の2・(1)及び(2))。
・ 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的の募集情報
・ その内容が法令に違反する募集情報
(イ) 募集情報等について、情報の提供を依頼した者の承諾を得ることなく当該情報を収集して改変して提供してはならなりません(指針第8の2・(3))。
(ウ) ストライキやロックアウトの⾏われている事業所に関する募集情報等提供を⾏ってはなりません(指針第8の3)。

【改正法で追加されたもの】
(ア) 労働者になろうとする者、労働者の募集を行う者から申し出を受けた苦情を適切かつ迅速に処理しなければならず(改正法第43条の7第1項)、処理をするため相談窓⼝等の必要な体制を確保しなければなりません(同法第2項、指針第8の6)。また、当該苦情を適切かつ迅速に処理するため必要に応じて職業安定機関と連携を行う必要があります(指針第8の6)。
(イ) 労働者に関する情報を収集して募集情報等提供事業を⾏う場合、必ずしも特定の個⼈が識別できる個⼈情報ではない情報のみを収集していても、特定募集情報等提供事業(後述)に該当することを前提に規制を遵守するものとします(指針第8の4)。
(ウ) 以下のとおり適正な広告宣伝等を実施しなければなりません(指針第8の5)
・ ハローワークや公的機関と関係のない募集情報等提供事業を⾏う場合、誤認させる名称を用いてはならない。
・ 宣伝広告する際は、法令等に鑑み、不当に利⽤者を誘引し、合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表⽰をしてはならない。
(エ) 職業安定機関の⾏う雇⽤情報の収集、標準職業名の普及等への協⼒するよう努めなければなりません(努力義務 指針第8の1)。

上記【改正法で追加されたもの】のうち、事業者にとって負担が予想されるものが(ア)の苦情処理体制の確保です。これは具体的には、少なくとも電話番号やメールアドレス、問い合わせフォーム等、苦情の申出先となる相談窓口を明確にし、苦情を受け付けることができる体制を確保する必要があるとされています(業務運営要領第3の5)。

イ 募集情報等の公開(努力義務)
募集情報等提供事業者は、以下の情報を公開することが努力義務として課されます(改正法第43条の6、同施行規則31条の4第2項)。
(ア) 労働者の募集に関する情報の的確な表示に関する事項
(イ) 苦情の処理に関する事項
(ウ) 労働者になろうとする者の個人情報を適切に管理するために必要な措置
(エ) 労働者の募集に関する情報又は労働者になろうとする者に関する情報に順位を付して表示する場合における主要な事項

ウ その他の規制
その他にも、人種、国籍、信条、性別、社会的身分等を理由とした均等待遇に関する事項として差別的な取扱いの禁止(改正法第3条)や労働者の募集及び採用における年齢制限の禁止に関する法規制(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第9条等)の遵守等、職業紹介事業者と共通して遵守する事項が追加されています。

3 おわりに

このように、これまで職業安定法上特に規制されてこなかった求人メディア等が募集情報等提供事業として規制されるに至り、また規制の内容も自体も上記のように多岐にわたり、罰則規定が直ちに適用され得るものも存在していることから、職業紹介事業者だけでなく、求人メディア等を運用するに留まる事業者も今後は規制内容を意識した運営をしなければなりません。
これについて、細かな内容まで自社で全て対応しようとすると、誤った対応や遺脱が生じるおそれも高いと思いますので、一度まとめて弁護士にご相談いただき、対応された方が良いと思います。

 

 

<脚注>

※1 平成11年労働省告示第141号「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針」

※2  令和4年10月厚生労働省職業安定局「募集情報等提供事業の業務運営要領」
※3 電子政府の総合窓口「e-Gov電子申請」
※4 厚生労働省令和4年9月版「特定募集情報等提供事業に関する届出書等 記載要領」