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プロコミットパートナーズ法律事務所で働く魅力とは?

■目次

想像以上に幅広い領域の業務を手掛ける
1. スタートアップ・ベンチャー企業特有の法務に柔軟に対応
2. アソシエイト弁護士にとって総合的な力をつけやすい環境
3. ゼネラリストとしての業務経験と専門性の両者を獲得
プロコミットパートナーズで働くやりがいと待遇
4. 経営者や様々な職種の人とやり取りをしながらビジネスの成長に寄与できる

5. 「プロフェッショナルとして働く」が働き方のスタンス
6. ライフワークバランスの実現も
7. 最後に

 

 

当事務所のメイン業務は、スタートアップ・ベンチャー企業向けの企業法務です。これだけを聞くと支援領域が狭いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、「スタートアップ・ベンチャー」と言っても、業態は様々ですし、上場企業やVC(ベンチャーキャピタル)など、スタートアップ・ベンチャー企業に対して投資を行う投資家における法務も支援しており、実際には想像以上に幅広い業務を手掛けることができます。

業務において関連する法分野は、民法、会社法、金融商品取引法、知的財産権法、個人情報保護法、労働法、独占禁止法、景品表示法、下請法など、多岐に渡ります。また、例えば、ヘルスケア関係のスタートアップであれば、医療法、医師法、薬機法などを、不動産関係のスタートアップであれば、宅建業法や借地借家法などを取り扱うことがあり、クライアントの事業内容に固有の業法なども取り扱うことも多いです。

もちろん裁判手続も取り扱っております。債権回収、債務不履行に基づく損害賠償請求などの一般的な紛争事案の他、不動産訴訟、労働審判等の労働紛争、会社法の手続に関する紛争、株価算定に関する非訟など、裁判手続も多様な案件があることが特徴です。

スタートアップ・ベンチャー企業の場合は、創業株主間契約や資金調達、ストックオプション、サービスの適法性に至るまで、高度な法律問題も含めて対応しています。企業が事業を推進する中で前例が存在しない難しい局面を迎えた場合も、最善の選択ができるようなアドバイスを行います。業法などの場合、裁判例や文献などがあまり存在しないこともあり、リサーチを尽くしても確定的な見解が出せないことも多いです。そのような場合には、グレーゾーン解消制度を利用するなどの方法により、クライアントが望む解釈が正しいことを公表してもらうべく、官公庁と折衝することもあります。

スタートアップ・ベンチャー専門と聞くと上場企業のクライアントはいないようにも思われるかもしれませんが、日本のスタートアップ・ベンチャーは、大半がIPOを目指すので、当事務所のクライアントには上場企業もおります。この記事の本題とは少しずれますが、長年サポートしてきたクライアントが上場するのは本当に嬉しい出来事で、この仕事をやっていてよかったと思う瞬間でもあります。上場企業の場合は、株主総会やインサイダー取引対策など、新規に上場した企業が初めて直面する問題にあたりますので、そのあたりをサポートしていくこととなります。また、上場企業のスタートアップ・ベンチャー企業に対する投資・買収案件のサポートも行っています。スタートアップ・ベンチャーの内情に詳しいことにより、より精密な契約交渉のアドバイスをできることや、通常は見逃してしまうようなDDの論点も見つけることができることが強みだと考えています。

投資家向けには、投資家がベンチャー企業に投資する際の投資契約や株主間契約はもちろんのこと、多様化・複雑化が進む優先株式やコンバーティブル・エクイティなど、最先端の投資スキームにも対応します。また、VCの場合には、投資事業有限責任組合(LPS)というファンドを組成して(場合によっては有限責任組合(LLP)も利用して)、外部投資家からお金を集めてスタートアップ・ベンチャーに投資することが多いのですが、かかるファンド組成のサポートも行っております。

 

1. スタートアップ・ベンチャー企業特有の法務に柔軟に対応

当事務所と大手法律事務所の大きな違いは、スタートアップ・ベンチャー企業に対応するためのノウハウの蓄積量です。最近では、スタートアップ・ベンチャー法務を手掛ける大手法律事務所も増えていますが、大手法律事務所のフィーを払えるスタートアップ・ベンチャーの割合は少なく、大手法律事務所を利用できるのはある程度大型の調達を行ったスタートアップ・ベンチャーに限られるため、スタートアップ・ベンチャーについてのノウハウ、特に、創業から間もないスタートアップ・ベンチャーに対するノウハウに関しては、当事務所に強みがあると考えられます。

当事務所は、実際にシード期~上場後までの広いフェーズで様々な企業をサポートしてきた実績があるため、弁護士個人としても事務所全体としても、幅広い知識・経験が蓄積されています。単に、法的な知識に限らず、クライアント内に法律に詳しいメンバーがいないことを前提としてどのように業務を円滑に進めるか、スタートアップ・ベンチャー側のリソースが少ないことを前提として一番効率の良い進め方はどのようなものか、といったノウハウも蓄積されていっております。

また、上場企業や投資家側のクライアントもいることで、ディールの相手方の内情も理解していることも、スタートアップ・ベンチャー側でサポートする際の強みになっています(逆に、上場企業や投資家側で対応する場合の強みでもあります。)。

以上の理由から、上記で紹介したような幅広い業務に対応し、スタートアップ・ベンチャー企業特有の法務の問題に柔軟かつ的確なアドバイスができる環境にあるのです。

 

2. アソシエイト弁護士にとって総合的な力をつけやすい環境

当事務所にアソシエイト弁護士としてジョインしていただいた方は、(i)顧問契約があるクライアントなど、特定のクライアントの案件について窓口として継続的に対応してもらいつつ、(ii)それまでにやったことのない案件を個別にアサインすることで、弁護士としての実力をつけていってもらうこととなります。

(i)については、特定のクライアントを継続的に対応することで、そのクライアントの業界や業法に対する深い知識などを得ることができる他、クライアントにどのように話せば複雑な法律問題を理解してもらえるかなど、クライアント対応のスキルも身につくこととなります。また、特定のクライアントを担当するため、当該クライアントと関係を深めることができ、よりやりがいを感じられると思います。

一方で、(i)だけだとどうしても担当しているクライアントでは出てきづらい法律問題や案件などもあるため、そのような法律問題や案件に関しても経験を積めるようにするために、(ii)も併用しています。

また、スタートアップの特性上、新しい相談が舞い込みやすいため、数年経ったアソシエイトでも(むしろパートナーでも)経験していない案件が継続的に発生します。今までにない業務の経験を他の弁護士よりも先に積むことで、その分やの仕事を獲得しやすくなるため、業務の幅が広がり、常に新しい経験ができることは魅力的なポイントの一つだと考えています。

こうした働き方は、当事務所の持つ強みでもあります。大手法律事務所の場合はどうしても業務が細分化されてしまい、複数名のチームの中で業務の一部分を担うケースが多いからです。自分で裁量を持って幅広い業務を手掛けるのは、なかなか難しいと言わざるを得ません。

当事務所なら、上記の通りあらゆる業務に携われます。M&AやIPOなど、クライアントの一大イベントに関わるだけでなく、VC(ベンチャーキャピタル)のファンド組成やスタートアップ・ベンチャー企業への出資などまで自分でサポートができるのは、弁護士としての経験として有用ではないかと考えております。

 

3. ゼネラリストとしての業務経験と専門性の両者を獲得

キャリアの早い段階で上述したような多種多様な業務に携われると、広い視野を持ちながらクライアントに対して適切な提案を行う力が培われていきます。弁護士として成長するスピードも、格段に速まることは間違いありません。一方で、スタートアップ・ベンチャーに特化している事務所ならではの専門性も積み上げていくことができます。

弁護士に必要不可欠な「基礎体力」をどの法律事務所よりも短期間で積み上げられ、ゼネラリストとして業務経験を積みながら、専門性も獲得できる。ここが、当事務所で働く大きなメリットだと考えています。

 

プロコミットパートナーズで働くやりがいと待遇

4. 経営者や様々な職種の人とやり取りをしながらビジネスの成長に寄与できる

その他の特徴としては、「経営者と直接やり取りできたり、様々な職種の人とやり取りできること」や、「クライアントから感謝されることが多い」という点です。

経営者と直接やり取りすることで、経営者目線を知ることができ、自分自身の考え方の視座も広がります。一方、クライアントによって、CEOやCFOなどの経営者に加え、経営企画、営業など、様々な職種の人とやり取りする機会があります。それぞれの職種の人がどのような考え方をするか知ることができ、外部にいながらも、スタートアップ・ベンチャーの内情をよく理解できるというのも、当事務所の特徴の一つです。

また、「クライアントから感謝されることが多い」という点ですが、資金調達やM&Aなどの重要な企業イベントに関わることが多く、一方で、資金調達やM&Aのような案件については、クライアント側では誰も経験したことがいない人も多いため、当事務所の専門知識が頼りにされることが多く、お礼の言葉をいただくこともしばしばあります。弁護士業務の辛い点と一つとして、常に何らかの仕事が入り続けているため、マラソンのように終わりが見えないことが挙げられるのではないかと思いますが、資金調達やM&Aなどは、それほど長期間に渡るわけではなく、また、完了した時に客観的にクライアントにもたらされるメリットが大きく、その上で、クライアントから感謝の言葉ももらえるため、当事務所では、頻繁にこの仕事をしていてよかったと思う機会があると思っております。このような点も当事務所で働く醍醐味の一つです。

 

5. 「プロフェッショナルとして働く」が働き方のスタンス

アソシエイト弁護士の場合、やりがいだけではなく実際の待遇や働き方が気になる方も多いかと思います。

まず待遇面で言うと、当事務所は創設した2018年よりも、弁護士の報酬水準が上がっています。創設時点では、1年目で600万円が固定の年間報酬、弁護士会費は事務所負担、アソシエイトが自ら獲得してきた案件については売上の20%をインセンティブとして払うという内容でした。現在では、弁護士会費の事務所負担とインセンティブは維持されつつ、1年目の固定の年間報酬の金額は700万円に増額され、また、事務所の業績とその年のアソシエイトの働きを踏まえたボーナスを支給しています。年間の報酬額を換算すると、創業当初よりも約100~200万円単位で増えています。アソシエイトの固定の年間報酬についても、今までの実績では、各人ごとに毎年増額できています。今後も、事務所が発展するにつれて、アソシエイトの報酬額を増やし続けたいと考えております。

パートナーへの昇格について、事務所としては、事務所に入ってから3~7年程度でパートナーになっていただきたいと考えています。ここでのパートナーは他の事務所ではいわゆるジュニアパートナーと呼ばれるようなポジションを想定しております。具体的には、一人で仕事を遂行しても問題ないと判断できる段階でパートナーに昇格していただくことを考えており、この段階で自分の判断でクライアントと契約する権限を持つことになります(もちろんアソシエイトやパラリーガルに業務を依頼する権限も持ちます。)。一方で、当初の時点では、自らの売上だけでは収入を維持できないと思いますので、引き続き他のパートナーの案件も対応してもらうことで、事務所から報酬を支払う想定です。つまり、パートナーになった後、自分の案件だけで食べていけるようになるまでの間(一人前のパートナーになるまでの間)、事務所が面倒をみるということです。パートナーになったからといって売上のノルマがあるわけでもないため、自分のペースで営業を頑張っていきたいと考える方には良い環境なのではと思います。

続いて、アソシエイトの働き方は、基本的にはパートナー弁護士や先輩の弁護士から指導を受けながら仕事を進めています。コーポレート案件・登記案件・訴訟案件などについてはパラリーガルに手伝ってもらい、M&Aなどの大型の案件では、複数の弁護士とパラリーガルでチームを組んで対応していることが多いです。パートナー、先輩弁護士、パラリーガルなどの知識を借りることができる環境であるため、自分一人では対応できない案件も経験することができます。

当事務所で、仕事に求めるスタンスは、とにかく「プロフェッショナルとして働くこと」です。クライアントからのご依頼にきっちりと応えられるよう、プロフェッショナルにふさわしいクオリティとスピードを追求しています。

 

6.ライフワークバランスの実現も

一方で、事務所として求めているプロとしての仕事のクオリティを保てるのであれば、むやみに稼働時間を長くすることは求めないというイメージです。実際に現状で土日もアソシエイトが働いていることはほぼありません(代表の長尾は働いていることも多いので、事務所にアソシエイトが来ていないことは確認できています。)。平日の労働時間も終電まで働いていることはほとんどなく、企業法務にしてはそこまでハードではない事務所だと思います。

また、2023年10月から、四半期ごとに自由に休める休暇を導入しました。アソシエイト弁護士の中でも、結婚をしたり、子供が産まれるメンバーが増えてきており、仕事以外の時間の重要性の高まりを感じたため、休暇を増やすことを決めました(もちろん結婚や子供の有無にかかわらず休暇は取得できます。)。まずは、4半期ごとに1日ずつという形で導入しましたが、今後アソシエイト弁護士の数が増えるにつれて、少しずつ休暇を増やしていく予定です。元々夏休みの制度もあるので、企業法務の事務所にしては、休暇は多い方ではないかと思います。

 

7. 最後に

ここまで当事務所で働く魅力をお伝えしてきましたが、一方で、誰もが当事務所に入ってもメリットを最大限享受できるわけではないと考えております。多種多様に渡る業務を行うということは、それだけ多くの知識を求められることとなるため、新しいことにチャレンジしていくことが楽しいと思える人でないと向いていないと思います。また、ある程度の業務スピードがないと、上記のプロフェッショナルにふさわしいクオリティとスピードを確保することが難しいです。弁護士の中には、スピード感をもって仕事をすることが得意なタイプと、じっくりと時間をかけて仕事をすることが得意なタイプがいると思いますが、スピード感が要求される当事務所においては、後者のタイプの方はストレスを感じる環境であるかもしれません。

また、休暇を増やすためには、各人が効率よく業務を行うことができる必要にあります。一部の弁護士が処理できる業務量が少なければ、その分他の弁護士が対応せざるを得ないからです。

上記のようなミスマッチを避けるために、当事務所では、初回の面談の際に、契約書レビューのテストを受けていただいております。事務所創設から間もない時は、かかるテストを飛ばした結果、ミスマッチが生じてしまい、あまり長く在籍してもらえなかったアソシエイトもいました。最近は、しっかりとこの点のミスマッチが生じないようにチェックしており、結果として、アソシエイトの在籍期間は伸びてきております。テストを受けるとなると面倒に思われる方も多いと思いますが、相性が合わない事務所に入ってもお互いに良いことはないと思いますので、この点ご理解いただければと思います。

最後に少しネガティブな印象を受けてしまったかもしれませんが、当事務所の業務が肌に合う方にとっては、弁護士として成長できる良い環境だと確信を持って言えます。テスト込みの正式な面接の申込みではなく、まずは一度話を聞いてみたいといった連絡も歓迎ですので、皆様のご連絡を心からお待ちしております!

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プロコミットパートナーズ法律事務所とは?

■目次

スタートアップ・ベンチャー法務に特化した法律事務所
1. 難しい領域だからこそスタートアップ・ベンチャー企業をサポートしたい
2. 圧倒的なノウハウを強みに支援と育成の両面に取り組む
3. 当事務所がクライアントから選ばれる理由
4. 最後に

 

 

プロコミットパートナーズ法律事務所は、スタートアップ・ベンチャー法務に特化した企業法務を行っている法律事務所です。所属する弁護士もスタートアップ・ベンチャー企業の法律実務に精通しているプロフェッショナルです。

ほぼ全てのクライアントが、いわゆるスタートアップ・ベンチャーと言われるような企業か、スタートアップ・ベンチャー企業に投資を行うベンチャーキャピタルや事業会社などです。最近スタートアップ・ベンチャー法務に力を入れる法律事務所が増えてきていますが、大半の事務所は一般民事もやっていたり、JTCといわれる大企業のクライアントの方がメインであったり、オーナー経営者が経営する中小企業のクライアントも数多く抱えていたりと、スタートアップ・ベンチャー法務以外の業務も多く取り扱っていることが多い印象です。もちろん他の業務を行うことが悪いというわけではありませんが、当事務所では、スタートアップ・ベンチャー法務に特化することで、より他の法律事務所との差別化を図ることができていると考えています。

例えば、スタートアップ・ベンチャー企業の場合、「そもそも弁護士に何を依頼すべきなのか?」という点が分かっていない会社も多いです。そして、創業期のスタートアップ・ベンチャー企業は、法務にかけられる潤沢な予算は無いことがほとんどです。当事務所ではそのことを良く理解しており、また、経験上どのような分野でスタートアップ・ベンチャー企業がトラブルに巻き込まれることが多いため、創業株主間契約や資本政策、利用規約など、優先順位の高いものについて優先的に依頼した方が良いとアドバイスするなど、予算がない中で一番コストパフォーマンスを発揮できるようにするためのアドバイスなども行っております。

スタートアップ・ベンチャー企業は、大企業と比べると潤沢な資金がない一方で、一般的な中小企業に比べると、サービス内容の違法性や資金調達、ストックオプション絡みの高度な法律問題に突き当たりがちです。新規領域に挑戦するケースが多いからこそ、過去の事例に当たっても正解が存在しないことは珍しくありません。

以上のような難しい状況の中で、どのような対応をすべきなのか。当事務所の弁護士はここにコミットし、スタートアップ・ベンチャー企業の皆様が最善な選択をできるようサポートしています。

 

1. 難しい領域だからこそスタートアップ・ベンチャー企業をサポートしたい

当事務所の代表の長尾は前職から独立して当事務所を設立しましたが、その背景の一つにあるのは、日本にスタートアップ・ベンチャー企業を十分にサポートできる弁護士・法律事務所が足りないという課題感です。スタートアップ・ベンチャー専門の優良な事務所が日本に存在しないわけではありませんが、その数はそれほど多くなく、また、既に大きな事務所になっているような場合には、クライアント間での紛争等についてコンフリクトが生じてサポートできないケースがあります。

スタートアップ・ベンチャー企業をサポートできる弁護士が少ない要因の一つは、スタートアップ・ベンチャー企業の法務に高い専門性が求められる点です。一方で実際のスタートアップ・ベンチャー企業は、特に創業期において一般的な会社と比べて、法務知識が圧倒的に不足しているケースがほとんどです。どんな弁護士に依頼をすればいいのかすらわからず、予算もない。こうした状況が重なった結果、安く請け負ってくれる知見のない弁護士に依頼し、失敗してしまうのです。

法務の壁に突き当たっている数多くのスタートアップ・ベンチャー企業を成功へと導きたいという想いで、当事務所は設立されたのです。

 

2. 圧倒的なノウハウを強みに支援と育成の両面に取り組む

当事務所の代表の長尾は、14年ほどスタートアップ・ベンチャー企業を専門とした弁護士として働いてきており、多くのスタートアップ・ベンチャー企業をシード期から上場後まで含めた全てのテージでサポートしてきた実績もあります。当事務所を設立した後は、さらにクライアント数や案件数を事務所全体で増やし、スタートアップ・ベンチャーに対するノウハウが事務所に蓄積され続けています。

当事務所の実績として、設立から5年で顧問先は100社を突破しましたが(このコラムの公開を開始した2023年10月時点では約110社となっており、引き続き顧問先を含めたクライアントは増え続けております。)、広告はほとんど行っておらず(一度だけ実験的に試しましたが、現在は全く行っておりません。)、ほとんどが紹介ベースです。スポットのクライアントは週2~3社のペースで増えております。紹介ベースでここまで増やせるのは、弁護士としてのスキルだけでなく、スタートアップ業界での交友関係の広め方のノウハウなどもあるためです。当事務所では、自分でクライアントを獲得したいと考えているアソシエイト弁護士に対してそのようなノウハウも共有されます。

他事務所と比べても圧倒的なノウハウの蓄積がある点が、支援の面でも弁護士育成の面でも、強みであると自信を持って言えます。

スタートアップ・ベンチャー企業に対する投資額の増加、国策としてのサポートなどの現在の動向に鑑みると、今のままでは明らかに専門の弁護士が足りていません。上記でクライアント数が順調に増えていることについても述べていますが、その理由の一つは、スタートアップ・ベンチャーに知見のある弁護士として安心して紹介できる専門家の数がまだまだ少ないからだと思います。当事務所において、スタートアップ・ベンチャー企業専門の弁護士の数を増やしていくのも、重要なミッションの一つと考えています。

具体的なノウハウ共有の手段として、日々行われるひな型やマニュアルやチェックリストのアップデート、月に一度弁護士ミーティングを行うことにより最新の法改正や判例についての共有、経験の浅いアソシエイトに関しては、先輩アソシエイト又はパートナーが基本的に全ての成果物のチェックの実施などを行っています。

 

3. 当事務所がクライアントから選ばれる理由

当事務所がクライアントから選ばれる理由としては、「業務内容のクオリティ(専門性)、スタートアップ・ベンチャーに対する理解度、対応スピード、支援スタンス、スタートアップ・ベンチャー企業に寄り添った料金」などが挙げられると思っています。

業務内容のクオリティ(専門性)、スタートアップ・ベンチャーに対する理解度、対応スピード、などは説明しなくとも想像がつくと思いますが、支援スタンスについては、大きく7つのミッションを掲げています。

1.プロとして最大限関与し、責任を果たす
2.常にクライアント目線に立つ
3.先生ではなく同志になる
4.最適なスピードでのサービス提供
5.一番の相談者になる
6.積極的に新しいことに取り組む
7.最後まで諦めない

特に、クライアントに共感していただいているのが3つ目の「先生ではなく同志になる」だと思います。「同志」になるというのは、スタートアップ・ベンチャー企業がどのような立ち位置にいる存在なのかを理解して、寄り添うということでもあります

例えば、スタートアップ・ベンチャー企業は社会的にはまだまだ立場が弱い側面がありますが、一方で事業の成長スピードも状況の変化も、非常に速いものです。だからこそ当事務所は可能な限り即日の対応を心がけ、スタートアップ・ベンチャー企業のスピード感に間に合うようにしています。

また、スタートアップ・ベンチャー企業は圧倒的にリソースが不足しています。限られた条件の中で、一体どんな選択肢を選ぶのが企業にとって最善なのか。ここをクライアントファーストの思考で考え、可能な限りの手を尽くすのが、当事務所のスタンスです。

料金面については、先ほども述べたように創業期のスタートアップ・ベンチャー企業の場合、そもそも法務に割ける潤沢な予算がないケースが多い、という事情があります。一方で、スタートアップ・ベンチャーの法務は、エクイティファイナンスなどを始めとして、専門性が要求されるという特色があるため、スタートアップ・ベンチャーを専門に対応している事務所か、いわゆる大手の企業法務を行っている法律事務所以外では対応が難しい面があります。大手の法律事務所は料金設定が高すぎて、創業段階では利用が難しいのが通常です。

当事務所でも原則として弁護士のタイムチャージ制をとっていますが、対応スピードが早いゆえに、単価自体はそれなりの水準を維持しつつも、最終的に請求する金額は大手の法律事務所よりも安くサービスが提供できていると自負しております。ノウハウの蓄積量や社内の仕組み化における生産性向上によって、弁護士一人当たりの単価を下げることなく、スタートアップ・ベンチャー企業に寄り添った支援を可能としています。また、スタートアップ・ベンチャー側での予算管理に資するため、可能な限り固定金額で見積もりを出すことを検討するなど、その会社の財務状況に合わせた法務相談を行っております。

潤沢な予算がないケースが多いと言いましたが、一方で、スタートアップ・ベンチャーは急成長を嗜好していることから、クライアントの中には大きく成長し、法務に対してある程度コストをかけられるクライアントも出てくることとなります。大きく成長しているクライアントは、その過程で法務の大切さを身に染みていることが多く、大きい案件の場合には、それに見合った適切なフィーをかけることも理解してくれることから、全てのクライアントの一社あたりの売上が小さいというわけでもありません。

素晴らしい仲間を増やしていくためには、素晴らしい仕事をしてくれることについての報酬で報いることも必要不可欠であるところ、単に安売りするのではなく、事務所としての収益性の向上も両立させることを目指し続けています。

 

3. 最後に

現在の社会における日本企業の問題点は、そもそも起業する企業の母数が少なく、結果的に世界を代表するような会社が生まれる土台が築かれていない点にあると考えています。その根本にあるのは、スタートアップ・ベンチャー企業への支援の手薄さです。

法務に関してもこの点は否めません。「起業に伴う手続きの煩雑さ」や「法令に関するノウハウ不足」などの懸念から、なかなか新しい有力な企業が創出されないケースが、日本においては一定数存在します。

また、せっかく世界を変えるという意思を持って起業した場合でも、日本のスタートアップ・ベンチャーでは、早い段階において法務面で躓くことにより、本当はもっと成長できたであろうところが、失敗に終わるケースがあります。例えば、きちんと弁護士の確認を経ていれば適法な体制で実施出来たであろうサービスが法律に抵触していたケース、資本政策の失敗により創業者間でトラブルが起きても解決できずにそのまま解散してしまったケースなど、事前に専門的に知識のある弁護士に相談していれば、ユニコーン、場合によってはGAFAMのような企業が出来ていた可能性もあるかもしれません。

当事務所では、上記のような問題を少しでも多く解決すべく、仲間を増やしたいと考えておりますので、これを読んで当事務所に少しでも興味を持たれた方は、是非「採用情報」( https://pcpl.jp/recruit/ )を読んでご応募いただければと思います!

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大転職時代におさえておきたい改正職業安定法の改正ポイント

■目次

記事トップ
1. 募集情報等提供の拡大
2. 規制内容の強化
3. おわりに

 

 

プロコミットパートナーズ法律事務所、弁護士の佐藤朋征です。
今日ではキャリア形成において「転職」をすることも一般的ですが、就職や転職活動をするにあたり求人サイト等インターネット上のサービスを利用することが主流となっています。ベンチャー企業においても、求職・求人に関する情報を掲載し、求人者と求職者をマッチングするサービスを展開する企業も多く、就職や転職について様々な選択肢を広く提供しています。
このような求職活動の変化に応じて、令和4年3月31日に公布された「雇用保険法等の一部を改正する法律」のうち、職業安定法(以下「法」といい、今回の改正に伴い新設又は変更されたものを「改正法」といいます。)に関する改正が一部を除き令和4年10月1日に施行されました。今回の法改正は、主にインターネットを利用した求職活動の環境整備、そして求人メディア等のマッチング機能の質の向上を目的としており、多種多様化する求人メディア等に対して規制対象を拡大する趣旨で「募集情報等提供事業」の範囲が拡大されました。これにより今まで規制対象ではなかった求人メディアにも規制が及ぶことになります。また、規制内容も強化され、具体的には、求人等に関する情報の的確な表示の義務化、個人情報の取扱いに関するルールの整備等が定められました。これにより今まで規制対象ではなかった求人メディア等も職業安定法の規制への対応を迫られることになり、人材メディアや人材プラットフォームを運営する事業者には看過できない内容となっています。そこで、募集情報等提供の拡大と規制内容の強化を中心に改正職業安定法について解説したいと思います。

1 募集情報等提供の拡大

⑴ 職業紹介と募集情報等提供
就職や転職に関して、職業安定法上の「職業紹介」(法第4条第1項)、すなわち求人及び求職の申込みを受け求人者と求職者との間における雇用関係の成立を斡旋することを事業として行う場合、職業安定法上の許可を取得して実施する必要があります(法第30条第1項、第33条第1項)。当該許可を得るためには、例えば、事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること(法第31条第1項第1号)等の一定の許可基準を満たす必要があり、企業によってはそこそこハードルが高いものではあります。また許可を取得した後も、職業安定法及び同法に基づく厚生労働省の指針(※1)(以下「指針」といいます。)に基づき規制を遵守して運営を行う必要があります。
他方、職業紹介と似て非なるものとして、「募集情報等提供」があります(法第4条第6項)。これは、雇用関係の成立の斡旋と評価されるほどの関与はしないものの、求人者や求職者の依頼を受けて募集情報や求職者の情報を、求職者や求人者に提供する行為をいいます。募集情報等提供について、職業安定法上の許可をはじめ職業紹介事業者に対する規制は適用されません。これまで多くの求人メディアは、この募集情報等提供行為として特段許可を得ることなく運営されてきました。
このような許可を要する「職業紹介」と、許可が不要とされる「募集情報等提供」については、従前から厚生労働省が指針において区別の基準を定め、これにより区別がなされてきました。
今回の改正に合わせて、この基準も改正されました。具体的には指針において、以下の➀と➁の内容が明記されるに至りました(指針第6の6・(2))。

  • ①次のいずれかに該当する行為を事業として行う場合は、当該者の判断が電子情報処理組織により自動的に行われているかどうかにかかわらず、職業紹介事業の許可等が必要であること。
    イ 求職者に関する情報又は求人に関する情報について、当該者の判断により選別した提供相手に対してのみ提供を行い、又は当該者の判断により選別した情報のみ提供を行うこと。
    ロ 求職者に関する情報又は求人に関する情報の内容について、当該者の判断により提供相手となる求人者又は求職者に応じて加工し、提供を行うこと。
    ハ 求職者と求人者との間の意思疎通を当該者を介して中継する場合に、当該者の判断により当該意思疎通に加工を行うこと。
  • ➁また、宣伝広告の内容、求人者又は求職者との間の契約内容等の実態から判断して、求人者に求職者を、又は求職者に求人者をあっせんする行為を事業として行うものであり、募集情報等提供事業はその一部として行われているものである場合には、全体として職業紹介事業に該当するものであり、当該事業を行うためには、職業紹介事業の許可等が必要であること。
今後は上記の➀と➁に照らして、職業紹介に該当するか、募集情報等提供に該当するか判断することになります。

ただ、募集情報等提供事業者も職業安定法や指針において何らの規制もないわけではなく、求職者の個人情報を個人情報保護法に照らして安全管理する等の一定の義務、後述の【従来の規制で維持されたもの】に記載のように、募集情報に関する確認と訂正の求めへの対応等一定の義務は課されていましたが、今回の改正で義務とされた苦情処理の体制整備のような事項は努力義務に留まっていました。

⑵ 募集情報等提供の範囲の拡大
ところで、今日では、求人者や求職者からの依頼を前提としない求人サービスとして、例えば、以下のようなものが登場しています。

  • ビジネスSNS
    ビジネスに関する情報収集・発信や人材交流に特化したSNS。求職者である個人においては経歴等のキャリアに関する情報を登録・投稿し、求人企業へのPRやスカウトの誘引等にも利用されます。
  • クローリング型求人メディアやクローリング型人材データベース
    各社の採用ホームページや求人サイトの求人情報又は求職情報を収集・集約(クローリング)し、収集した情報を求職者に提供するクローリング型求人サイト(アグリゲーター型求人サイト)や、逆に求職者に関する情報を、ビジネスSNS等のインターネット上の公開情報等からクローリング等の方法により収集し、求人企業に提供する人材データベースサービス。

また、現在の求人メディア等では、求人企業や求職者ではなく、職業紹介事業者や他の求人メディア等から求人情報や求職者情報の提供の依頼を受け、これを提供することも多く行われています。

改正前の職業安定法では、募集情報等提供の定義は、求人者(求人企業)又は求職者の依頼を受けて、求職者又は求人者に対して、求人者や求職者に関する情報を提供するものとされていました。上記の新しいサービスは、いずれも求人者や求職者の「依頼」を受けて行われるものではなく、提供先も求人者や求職者ではないケースもあることから、募集情報等提供にさえ該当せず、職業安定法及び指針の適用が無いものも多く存在していました。

今回の改正では、まず募集情報等提供の定義が改正され、これまで対象外であった上記のサービスも募集情報提供行為として整理されます。

ア ビジネスSNS等の包含
募集情報等提供の定義の内、「依頼」の主体を求人者、求職者だけでなく、職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者、職業紹介を行う地方公共団体及び労働者供給事業者等にまで広げ、また提供先も職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者、職業紹介を行う地方公共団体及び労働者供給事業者にまで広げる改正がなされました(改正法第4条第6項第1号、同第4条第6項第3号、同施行令第4条)。
これにより、SNSの形態であっても、求人募集に関する情報や登録されたプロフィール等を労働者になろうとする者に関する情報として表示し、それを求人企業等が閲覧することを前提としているものに関する情報を投稿・表示することを前提としているものは募集情報提供に該当します。

イ クローリング型求人サイトの包含
労働者の募集に関する情報を、労働者になろうとする者の職業の選択を容易にすることを目的として収集し、労働者になろうとする者だけでなく、職業紹介事業者や募集情報等提供事業を行う者に提供することまで広げる改正がなされました(改正法第4条第6項第2号)。
これにより、求人・求職に関するサービスとして、労働者の募集に関する情報をクローリング等の方法で収集し、労働者になろうとする者や職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者に提供するクローリング型求人サイトも募集情報等提供に該当します。

ウ クローリング型人材データベースの包含
労働者になろうとする者に関する情報を、労働者の募集を行う者の必要とする労働力の確保を容易にすることを目的として収集し、労働者の募集を行う者だけでなく、職業紹介事業者や募集情報等提供事業に提供することまで広げる改正がなされました(改正法第4条第6項第4号)。
これにより、求人・求職に関するサービスとして、労働者になろうとする者に関する情報をクローリング等の方法で収集し、労働者になろうとする者や職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者に提供するクローリング型人材データベースも募集情報等提供に該当します。

このように、ビジネスSNSでの求人求職情報掲載や、クローリング型の求人サイトや人材データベースも募集情報等提供として、職業安定法や指針の規制を受けることになります。

2規制内容の強化

このように募集情報等提供事業者として規制が及ぶ範囲自体が拡大したのですが、それだけでなく職業安定法上の規制対象業種、すなわち職業紹介や募集情報等提供を事業として営む者に対する規制も改正されました。かなり細かな内容もありますので、以下では概要に絞りご説明いたします。

これまで、職業紹介事業者や労働者供給事業者等の職業安定法の一部の規制対象業種(以下、便宜上「職業紹介事業者」といいます。)にのみ適用されていた規制が、募集情報等提供事業にも一部適用されることになりました。また、職業紹介事業者、募集情報等提供事業者に共通して適用される新たな規制も追加されました。

⑴ 求人情報等の的確表示規制

ア 虚偽又は誤解を生じさせる表示の禁止
職業紹介事業者や募集情報等提供事業者は、求人等に関する情報(求人情報、求職者情報、求人企業に関する情報、自社に関する情報、事業の実績に関する情報)を広告する場合、当該情報について、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはなりません(改正法第5条の4第1項)。指針においては、特に、以下のような点に留意する必要があるとされています(指針第4の2)。

①関係会社を有する者が労働者の募集を行う場合、労働者を雇用する予定の者を明確にし、当該関係会社と混同されることのないよう表示しなければならないこと。
②労働者の募集と、請負契約による受注者の募集が混同されることのないよう表示しなければならないこと。
③賃金等(賃金形態、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給、固定残業代等に関する事項をいう。以下同じ。) について、実際の賃金等よりも高額であるかのように表示してはならないこと。
④職種又は業種について、実際の業務の内容と著しく乖離する名称を用いてはならないこと。

イ 情報の正確性、最新性の保持
労働者を提供する企業は、求人等に関する情報について、正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければなりません(改正法第5条の4第2項)。具体的には、以下のような措置を講じる必要があります(指針第4の3)。

①労働者の募集を終了した場又は労働者の募集の内容を変更した場合には、その募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又はその募集に関する情報を速やかに変更するとともに、その情報の提供を依頼した募集情報等提供事業を行う者に対して、その情報の提供を終了するよう依頼し、又は当該情報の内容を変更するよう依頼すること。
②労働者の募集に関する情報を提供するに当たっては、情報の時点を明らかにすること。
③募集情報等提供事業を行う者から、法令に基づき当該募集に関する情報の訂正又は変更を依頼された場合には、速やかに対応すること。

また、職業紹介事業者や募集情報等提供事業者は、提供する求人等に関する情報について、正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければなりません(改正法第5条の4第3項)。

この正確かつ最新の内容に保つための措置は、上記の募集情報等提供事業者の各類型に共通の措置、類型ごとに求められる措置に分かれています(改正法施行規則第4条の3第4項、指針第4の4)。

【すべての事業者において共通して取るべき措置】
求人等に関する情報の提供者や情報を提供されている求人企業・求職者から、掲載の中止や内容の訂正の依頼があった場合には、速やかに対応する。また、正確かつ最新の情報でないことを自ら確認した場合には、速やかに内容の訂正の依頼又は掲載の中止を行う(同規則第4条の3第4項第1号、第2号)。

【職業紹介事業者において取るべき措置】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号イ)。
・求人者又は求職者に対し、定期的に求人又は求職者に関する情報が最新かどうかを確認する。
・求人又は求職者に関する情報の時点を明示する。

【改正法第4条第6項第1号に該当する募集情報等提供事業者】 以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ロ)。
・募集者等に対し求人が充足したときや内容を変更したときには、労働者の募集に関する情報の提供を依頼した者に対し、速やかに通知するよう依頼する。
・労働者の募集に関する情報の時点を明示する。

【改正法第4条第6項第2号に該当する募集情報等提供事業者】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ハ)。
・労働者の募集に関する情報を、定期的に収集・更新し、その頻度を明確にする。
・労働者の募集に関する情報を収集した時点を明示する。
【改正法第4条第6項第3号に該当する募集情報等提供事業者】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ニ)。
・労働者になろうとする者に関する情報の提供を依頼した者に対し、情報を正確かつ最新の内容を保つよう依頼する。
・労働者になろうとする者が情報を提供・更新した時点を明示する。
【改正法第4条第6項第4号に該当する募集情報等提供事業者】
以下のいずれかを講じる必要があります(同第3号ホ)。
・労働者になろうとする者に対して、情報を正確かつ最新の内容を保つよう依頼する。
・労働者になろうとする者が情報を提供・更新した時点を明示する。

ウ 罰則規定
上記に違反し、虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を提示して、募集情報等提供を行い、又はこれらに従事したときは、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(改正法第65条第9号。なお、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、当該違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科せられます(法第67条)。)。

⑵ 特定募集情報等提供事業者に対する特別の規制

ア 特定募集情報等提供について
募集情報等提供事業者のうち、求職者(労働者になろうとする者)に関する情報を収集して行うものについては、「特定募集情報等提供」を行う事業者(以下「特定募集情報等提供事業者」といいます。)として分類され(改正法第4条第7項)、求職者保護の観点からより強い規制が課せられます。

イ 届出義務
まず、事業開始にあたり所定の事項の届出が義務付けられます(改正法第43条の2第1項)。届出は、厚生労働省が法改正に伴い定められた「募集情報等提供事業の業務運営要領」(※2) 上様式が決められており、原則としてe-Gov電子申請(※3) を通じて行われるものとされています(業務運営要領第2の1(1)ロ)。これについては厚生労働省が記載要領(※4)を公開しているので、こちらに従い届け出ることが考えられます。また、届出事項に変更がある場合や事業廃止の場合も届出が必要です。

この届出義務については、懈怠した場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(改正法第65条第7号。なお、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、当該違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科せられます(法第67条)。)。

ウ 特定募集情報等提供事業者による事業概況報告書の提出義務
特定募集情報等提供事業者は、毎年8月31日までに、6月1日時点における事業の実施の状況について、募集要項記載の特定募集情報等提供事業概況報告書(様式第8号の6)を作成し、厚生労働大臣に提出する義務を負います(改正法第43条の5、同施行規則第31条の3第1項)。これについても原則として電子政府の総合窓口e-Gov電子申請を通じて行われるものとされています(業務運営要領第2の2)

エ 特定募集情報等提供事業者の報酬受領禁止
特定募集情報等提供を行う事業者は、情報の提供に関して、名義を問わず、募集に応じた労働者から報酬を受領してはならないとされています(改正法第43条の3)。

オ その他の規制
上記のとおり、特定募集情報等提供事業者については、求職者保護の観点から、他の募集情報等提供事業者よりも強い規制が課せられます。その関係上、⑶で述べる求職者の個人情報の取扱いに関する規制も適用されます。

⑶ 個人情報の取扱いの整備

募集情報等提供事業者も、職業紹介事業者と同様、個人情報保護法上の個人情報取扱事業者として、同法に従い求職者や労働者になろうとする者等の個人情報(以下「求職者等の個人情報」といいます。)を取り扱う義務があります。
職業紹介事業者は、個人情報保護法に加え、職業安定法及び指針に基づく規制に従い個人情報を取り扱う義務があるとされていますが、この規制対象に特定募集情報等提供事業者も含まれることになります(改正法第5条の5第1項)。

ア 個人情報の収集、保管及び使用に関する規制
従前より、求職者等の個人情報について、職業紹介等の業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・使用・保管しなくてはならないとされていました。これに加えて、今回の改正により、収集する際に事前に当該利用目的を明示しなければならないことになります。明示方法については、インターネットの利用その他適切な方法によるものとされています(改正法施行規則第4条の4)。また、明示の程度については、当該情報がどのように保管され、又は使用されるのか、労働者になろうとする者が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示する必要があり、業務運営要領では「漠然と「募集情報等提供事業のために使用します。」と示すだけでは足りず、例えば、「求人情報に関するメールマガジンを配信するため」や「会員登録時に入力いただいた情報を、希望した条件に合致する企業に提供するため」と示すといったことが考えられる。」とされ、ある程度具体的な用途を示す必要があります(業務運営要領第3の3・(1)・イ)。

また、以下のような求職者等の個人情報の取扱いを行う場合、同意なく行うことはできません(改正法第5条の5第1項、指針第5の1 なお、同意を取得する場合には指針第5・1・㈥の内容に従い行う必要があります。)。
・業務の目的の達成に必要な範囲を超えて、求職者等の個人情報を収集・使用・保管すること
・原則として収集してはならないこととされている個人情報について、特別な職業上の必要によって本人から収集すること
・個人情報を第三者から収集すること

その他にも、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項その他職業安定法や指針上禁じられる情報の収集をしないこと等といった職業安定法及び指針の規制も遵守する必要があります。

イ 個人情報の適正な管理
取得した個人情報の管理に関しても以下のような改正が行われ、職業紹介事業者、特定募集情報等提供事業者問わず遵守する必要があります(改正法第5条の5第1項、指針第5の2)。
①保管又は使用に係る措置として以下を講ずるとともに、求職者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明しなければならない。
・ 個人情報を目的に応じ必要な範囲において正確かつ最新のものに保つための措置
・ 個人情報の漏えい、滅失又は毀損を防止するための措置
・ 正当な権限を有しない者による個人情報へのアクセスを防止するための措置
・ 収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置
②求職者等の秘密に該当する個人情報を知り得た場合には、当該個人情報が正当な理由なく他人に知られることのないよう、厳重な管理を行わなければならない。
③次に掲げる事項を含む個人情報の適正管理に関する規程を作成し、これを遵守しなければならない。
・ 個人情報を取り扱うことができる者の範囲に関する事項
・ 個人情報を取り扱う者に対する研修等教育訓練に関する事項
・ 本人から求められた場合の個人情報の開示又は訂正(削除を含む。以下同じ。)の取扱いに関する事項
・ 個人情報の取扱いに関する苦情の処理に関する事項
④本人が個人情報の開示又は訂正の求めをした場合、これを理由として、当該本人に対して不利益な取扱いをしてはならない。

⑷ その他募集情報等提供事業者共通の規制

ア 募集情報等提供事業者の責務
募集情報等提供事業について、事業を行う上で履行するべき事項が従前より定められていましたが、以下のように拡充されています。

【従来の規制で維持されたもの】
(ア) 募集情報が次のいずれかに該当するときにおける情報の提供を依頼した者に対して変更依頼をするか又は広告等を中止しなければなりません。また、次のいずれかに該当するおそれがあるときは、情報の提供を依頼した者に対して確認を⾏い、又は情報の提供を中止しなければなりません(改正法第43条の8、指針第8の2・(1)及び(2))。
・ 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的の募集情報
・ その内容が法令に違反する募集情報
(イ) 募集情報等について、情報の提供を依頼した者の承諾を得ることなく当該情報を収集して改変して提供してはならなりません(指針第8の2・(3))。
(ウ) ストライキやロックアウトの⾏われている事業所に関する募集情報等提供を⾏ってはなりません(指針第8の3)。

【改正法で追加されたもの】
(ア) 労働者になろうとする者、労働者の募集を行う者から申し出を受けた苦情を適切かつ迅速に処理しなければならず(改正法第43条の7第1項)、処理をするため相談窓⼝等の必要な体制を確保しなければなりません(同法第2項、指針第8の6)。また、当該苦情を適切かつ迅速に処理するため必要に応じて職業安定機関と連携を行う必要があります(指針第8の6)。
(イ) 労働者に関する情報を収集して募集情報等提供事業を⾏う場合、必ずしも特定の個⼈が識別できる個⼈情報ではない情報のみを収集していても、特定募集情報等提供事業(後述)に該当することを前提に規制を遵守するものとします(指針第8の4)。
(ウ) 以下のとおり適正な広告宣伝等を実施しなければなりません(指針第8の5)
・ ハローワークや公的機関と関係のない募集情報等提供事業を⾏う場合、誤認させる名称を用いてはならない。
・ 宣伝広告する際は、法令等に鑑み、不当に利⽤者を誘引し、合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表⽰をしてはならない。
(エ) 職業安定機関の⾏う雇⽤情報の収集、標準職業名の普及等への協⼒するよう努めなければなりません(努力義務 指針第8の1)。

上記【改正法で追加されたもの】のうち、事業者にとって負担が予想されるものが(ア)の苦情処理体制の確保です。これは具体的には、少なくとも電話番号やメールアドレス、問い合わせフォーム等、苦情の申出先となる相談窓口を明確にし、苦情を受け付けることができる体制を確保する必要があるとされています(業務運営要領第3の5)。

イ 募集情報等の公開(努力義務)
募集情報等提供事業者は、以下の情報を公開することが努力義務として課されます(改正法第43条の6、同施行規則31条の4第2項)。
(ア) 労働者の募集に関する情報の的確な表示に関する事項
(イ) 苦情の処理に関する事項
(ウ) 労働者になろうとする者の個人情報を適切に管理するために必要な措置
(エ) 労働者の募集に関する情報又は労働者になろうとする者に関する情報に順位を付して表示する場合における主要な事項

ウ その他の規制
その他にも、人種、国籍、信条、性別、社会的身分等を理由とした均等待遇に関する事項として差別的な取扱いの禁止(改正法第3条)や労働者の募集及び採用における年齢制限の禁止に関する法規制(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第9条等)の遵守等、職業紹介事業者と共通して遵守する事項が追加されています。

3 おわりに

このように、これまで職業安定法上特に規制されてこなかった求人メディア等が募集情報等提供事業として規制されるに至り、また規制の内容も自体も上記のように多岐にわたり、罰則規定が直ちに適用され得るものも存在していることから、職業紹介事業者だけでなく、求人メディア等を運用するに留まる事業者も今後は規制内容を意識した運営をしなければなりません。
これについて、細かな内容まで自社で全て対応しようとすると、誤った対応や遺脱が生じるおそれも高いと思いますので、一度まとめて弁護士にご相談いただき、対応された方が良いと思います。

 

 

<脚注>

※1 平成11年労働省告示第141号「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針」

※2  令和4年10月厚生労働省職業安定局「募集情報等提供事業の業務運営要領」
※3 電子政府の総合窓口「e-Gov電子申請」
※4 厚生労働省令和4年9月版「特定募集情報等提供事業に関する届出書等 記載要領」 

コンテンツビジネスにおいておさえておきたいプロバイダ責任制限法の改正ポイント

■目次
記事トップ
1. 新たな裁判手続の創設
2. 情報の開示対象の拡大
3. おわりに
 

プロコミットパートナーズ法律事務所、弁護士の石原です。

世は大SNS時代に突入し、誰でもネット上で簡単に自己表現し、たくさんの人に向けて情報発信することができるようになりました。10代、20代の多くは、もはやGoogleではなくInstagramやTikTokで情報収集をしていますし、ベンチャー・スタートアップにおいてもSNSマーケティングは欠かせない要素となっています。

同時に、SNS上での誹謗中傷が社会問題化するなどの経緯があり、円滑な被害者救済のため、プロバイダ責任制限法(通称)が改正され、ネット上に書き込みなどを行った本人を特定するための発信者情報開示手続について、新たな手続が創設されることとなりました。なお、プロバイダ責任制限法の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」、今回の改正法の施行日は2022年10月1日です。

個人に対する誹謗中傷はもちろん、企業イメージを著しく害したりその法的権利を侵害するような書き込みも、要件を満たせば発信者情報開示請求の対象となり得ます。また、後述するとおり、今回の改正によりログイン情報が明示的に開示対象に含まれることになったので、SNSサービスやコンテンツ配信のプラットフォームを運営する事業者は、コンテンツプロバイダとして発信者情報開示請求に応じて情報開示を求められる立場に立つことが増えると予想されます。顔の見えない相手からネット上で誹謗中傷、業務妨害、著作権侵害などの権利侵害行為を受けた場合、どのような救済方法が用意されているのでしょうか。今回のコラムでは、従前の制度内容を概観しつつ、改正法による新設制度、変更点のポイントについて解説します。

1. 新たな裁判手続の創設

ネット上の匿名の投稿によって権利侵害を受けた場合、損害賠償請求などにより被害を回復するには、まずその請求の相手方=「発信者」を特定しなければなりません。そのための被害者の権利が、プロバイダに対する「発信者情報開示請求権」です(改正前プロバイダ責任制限法第4条)。

プロバイダが自主的に発信者情報を開示してくれればスムーズなのですが、投稿者側の「表現の自由」や個人情報保護という問題もあり、プロバイダ側としても安易に情報開示に応じるわけにもいきません。投稿内容が権利侵害に該当するか否かの判断が困難なケースはもちろん、権利侵害が明白と思われるような場合であっても、実務上、発信者情報がプロバイダ側から任意に開示されることは多くはありません。そのため、現行法下では、多くの場合、①コンテンツプロバイダ(投稿の場・サービスを提供している事業者)への開示請求、②アクセスプロバイダ(インターネット接続サービス事業者)への(消去禁止の仮処分及び)開示請求という手続きを経て、まず発信者を特定した上で、③発信者に対する損害賠償請求等を行うという3段階の裁判手続が必要となっており、これらの手続に多くの時間とコストがかかり被害者の大きな負担となっていることが指摘されてきました。

※総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」3-5頁

上記①、②がなぜ分かれているかというと、コンテンツプロバイダは発信者のIPアドレスやタイムスタンプといった情報を保有するのみで、氏名や住所などの情報を持っていないことが多いため、①まずコンテンツプロバイダへ仮処分の申立てを行い、IPアドレス・タイムスタンプの情報を開示してもらった上で、②アクセスプロバイダに対して発信者の氏名・住所の開示を請求する(訴訟提起に加え、消去禁止の仮処分申立てを伴います。)というステップを踏む必要があるためです。

そして、発信者情報開示請求権が裁判で認められるためには、発信された情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことが明らかであって、かつ、損害賠償請求権の行使その他の開示を受けるべき正当な理由があると認められることが必要です。

①の手続には通常国内プロバイダで2週間~2か月、海外プロバイダで3~4か月程度、②の手続には訴訟提起から開示判決まで通常それを経て発信者を特定できてやっと、発信者に直接アプローチすることが可能となるわけです。面倒で時間のかかる手続を踏んでいるうちにプロバイダ側の通信記録の保存期間が過ぎてしまい、記録が消滅し、結局発信者が特定できないという事態もたびたび生じます。そこで、今回の改正では、発信者情報の開示請求を1つの手続で行うことを可能とする新たな手続(非訟手続。国家が私人間の生活関係に後見的に介入してその調整を図る民事行政作用を規律する手続であり、訴訟手続に比べて手続が簡易であるため迅速処理が可能とされています。)が創設されました。

改正法下では、これまでの仮処分や発信者情報開示請求とは別の手続として、IPアドレスなどの開示を求めてコンテンツプロバイダを相手方とする発信者情報開示命令の申立てを行うと同時に(改正法第8条)、コンテンツプロバイダに対する提供命令の申立てを行うことができます(改正法第15条)。提供命令とは、裁判所がコンテンツプロバイダに対し、アクセスプロバイダの情報を提供すること及びコンテンツプロバイダ等が保有するIPアドレス等を申立人には教えないままアクセスプロバイダに提供するように命じるもので、申立てを受けた裁判所は、開示命令よりも緩やかな要件により提供命令を発令することができます。

その後は、提供命令により判明したアクセスプロバイダに対しても、発信者の氏名等の開示を求めて発信者情報開示命令の申立てをすることができます。両者に対する発信者情報開示命令の申立ては、併合して一体的に審理されることが予定されているので、同一の裁判官による迅速で一体的な判断が期待され、1回の手続で発信者情報の開示が実現されることになります(理想的に機能した場合は全体で3か月程度になるのではないかと言われています。)。

なお、提供命令の申立ての他に、アクセスプロバイダ側で発信者情報が消去されることを防止するための発信者情報の消去禁止命令の申立ても合わせて行うことができ(改正法第16条)、これにより、通信記録の保存期間が過ぎてしまう危険を可能な限り少なくすることができると期待されます。

発信者情報開示命令では担保金の納付が必要なく、これが従来の仮処分の手続と比較して請求者にとっての大きなメリットの一つです。

また、従来の手続では相手方へ申立書の副本の送達が必要であり、プロバイダが海外法人の場合は国際送達を行わなければならず、これも迅速性を阻害する要因の一つでした(海外送達には半年から1年程度かかります。)。新たな非訟手続では「申立書の写しの送付」(改正法第11条)という簡易な方法で足りることとされているので、特に海外のプロバイダを相手方にする場合、従来よりも迅速な手続の進行が期待できます。

開示命令申立ての裁判管轄は、相手方の主たる営業所の所在地を管轄する裁判所に申立てが可能なほか(改正法第10条第2項)、管轄権を有する裁判所が東日本(東京高裁、名古屋高裁、仙台高裁、札幌高裁管内)であれば東京地方裁判所、西日本(大阪高裁、広島高裁、福岡高裁、高松高裁管内)であれば大阪地方裁判所にも申立てが可能とされています(同第3項)。

以上が新たに創設された開示請求手続の概要ですが、現行の開示請求手続も併存する形になっているので(改正法第5条)、どちらの手続を選択することもできます。争訟性が低く訴訟に移行しないような事件についてはまず非訟手続で早期解決を図り、非訟手続における開示可否の判断に異議がある場合に、訴訟手続において慎重な審理を行うといった選択が考えられます。なお、新たな発信者情報開示命令事件の裁判手続によっては、投稿の削除を求めることはできない一方、仮処分による場合は、管轄裁判所が同一になる場合であれば合わせて投稿の削除も求めることができるため、コンテンツプロバイダに対して投稿の削除も同時に求めたい場合には、従来の仮処分の手続を用いることになるでしょう。

2. 情報の開示対象の拡大

今回の改正では、開示請求を行うことができる範囲も見直されています。

プロバイダ責任制限法が制定された2001年当時に主に問題となっていたのは、ネット上の匿名掲示板上で権利侵害投稿がなされるようなケースです。このような匿名掲示板への投稿では、個別の投稿ごとにIPアドレス等が記録されることが多いため、投稿時の発信者情報の開示を認めることで、投稿者を特定することができていました。これに対して昨今問題となっているのは、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSを利用した権利侵害投稿です。このようなSNSでは、ユーザーがサービスにログインした時の通信は記録されているものの、個々の投稿時の通信は記録されていないことが多いのです。

改正前のプロバイダ責任制限法は、開示請求の対象について、「権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)」(旧プロバイダ責任制限法第4条第1項)と定めた上で、これを受けた総務省令で、以下の情報をいうものと定めていました。

①発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名・名称

②発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所

③発信者の電話番号

④発信者の電子メールアドレス

⑤侵害情報に係るIPアドレス及び当該IPアドレスと組み合わされたポート番号

⑥侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末からのインターネット接続サービス利用者識別符号

⑦侵害情報に係るSIMカード識別番号のうち、当該サービスにより送信されたもの

⑧⑤のIPアドレスにより割り当てられた電気通信設備、⑥の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は⑦のSIMカード識別番号に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻

上記の条文を形式的に適用すると、「侵害情報の送信」に当たらない単なるログイン時の通信に関する情報については開示請求の対象外であり、ログイン情報のみを記録しているSNSサービスについては一切の発信者情報開示が不可能ということになってしまいます。この点について、従来の裁判所の判断は分かれており、個別事情に着目してログイン情報の開示請求を認容した例もあれば、請求を棄却した例もあります。

今回の改正では、ログイン時情報の開示に関し、ログイン時やログアウト時の通信を「侵害関連通信」とし、この侵害関連通信に係るIPアドレス等の発信者情報を「特定発信者情報」として、発信者情報開示命令の対象とすることで、上記のようなログイン型のSNSサービスにおけるログイン時の情報も、一定の要件のもとで開示の対象とすることが明確になりました(改正法第5条第1項第3号)。具体的には、従来の開示の要件である①権利侵害の明白性(改正法5条1項1号)、②開示を受ける正当理由(改正法5条1項2号)に加えて、③補充性(改正法5条1項3号イ~ハ)、すなわちログイン時情報しか保有していないなどのやむを得ない事由が必要となります。侵害情報と関係の薄い他の通信の秘密やプライバシーへの配慮から付加された要件です。

これにより、一定の要件のもとで、ログイン時のIPアドレスなどからログインのための通信経路を辿って発信者を特定することができるということが条文上明確となりました。

3. おわりに

発信者情報の開示請求は、これまで仮処分申立てと訴訟という手続で行われていましたが、新設された発信者情報開示命令では、訴訟ではなく非訟手続で一体的に審理し、迅速に開示してもらう点に特徴があります。施行前のため、発信者情報開示命令事件の審理期間がどの程度になるかは分かりませんが、従来の手続よりはスピーディーに開示されることが期待されます。

いずれにせよ、SNSで匿名の第三者によってあらぬ悪評が流されたり、著作権侵害と思われるような投稿がされるなどによって損害が生じたような場合には、すぐに投稿者を特定することは難しい場合が多いため、ログ情報が削除されてしまう前に、期間を開けずに発信者情報開示の手続を行うことが重要となります。

また、SNS上で一度流された情報の流通速度はとても速いです。裁判所における手続が複雑で分かりにくいことに加え、そもそも問題の投稿が法的に損害賠償できるような権利侵害行為に当たるかどうか悩ましいケースも多いと思われるので、実際の投稿に関する証拠を保存した上で、お早めにご相談いただければと思います。

スタートアップ・ベンチャーが知っておくべき資本政策とコーポレートの知識

■目次
記事トップ
1. 設立段階
2. 資金調達について
3. 株式譲渡と自己株式の取得の留意点
4. 定時総会と役員選任の留意点(+株主総会一般の留意点)
5. ストックオプションについて
6. その他コーポレート関係で知っておいた方が良いこと
7. おわりに

大変ご無沙汰しております。弁護士の長尾です!

2018年6月1日にスタートアップ・ベンチャー専門の法律事務所として、プロコミットパートナーズ法律事務所を立ち上げてから約四年が過ぎました。このコラムについては月一くらいで更新できたら良いなと思っていたのですが、ものの見事に4年経過しました…

改めて自己紹介をさせていただきますと、私は弁護士としては13年目で、スタートアップ・ベンチャー企業のサポートを専門にしております。従前所属していた事務所でも、現在の事務所でも、仕事の大半は、スタートアップ・ベンチャー企業又はスタートアップ・ベンチャーに投資を行うエンジェル・VC・事業会社からの依頼となっています。

また、独立後エンジェル投資を開始し、十数社に投資させていただき、Branding Engineer(https://b-engineer.co.jp/)というイケてるITベンチャーの社外取締役にもなりました。同社は2020年に無事上場し、役員としては初めての上場を経験させていただきました。

事務所はこの6月に目黒のオフィスに移転し、約3倍の広さとなりました。皆様のおかげで何とか最初の4年間は生き延びることができました。

改めて今回のテーマは「資本政策」と「コーポレート」です。当事務所がスタートアップ・ベンチャーに対して提供する法務でのサポート事項は多岐に渡っているのですが、代表的なものが資本政策とコーポレート関係です。ざっくり言うなら、「資本政策」とはエクイティと資金調達関係の計画、「コーポレート」は会社法とその周辺領域のサポートですね。

資本政策とコーポレートについてはスタートアップ・ベンチャーにとって、最も問題が起こりやすい分野ではないかと思います。なぜなら、起業家の多くは、サービスに関する経験は積んでいても、資本政策とコーポレート関係の仕事はまるでやったことがないことが多いためです。

そこで、今回は、スタートアップ・ベンチャーが知っておいた方が良い資本政策とコーポレートについて書いていこうと思います。上記のとおり、10年以上この分野で弁護士としてやってきており、また、エンジェルや社外取締役としての立場もあるので、役に立つ知見もあるのではないかと思っています。加えて、当事務所では、商業登記の業務も数多く取り扱っていますので、その意味でも知見を提供できるのではないかと思います。登記というと司法書士の先生に頼んでいる方も多いと思いますが、ファイナンスや資本政策に関する仕事を行う上では、登記は切っても切り離せない事項であるため、当事務所では全弁護士が商業登記に関する業務を行っています。

なお、私は弁護士なので、法的な観点からの話がメインになります。特に、資本政策については、ビジネスの観点や会計税務の観点も切り離せないので、それらの観点からアドバイスをもらえる人は別途探した方が良いと思います。

あと、特に資本政策については絶対の正解というものはないのと、どこまで丁寧に説明すべきかの判断が難しかったので、一度公表した後も適宜加筆・修正していこうかなと考えています。

それと、立場上敢えて書いていないこと、同業者には知られたくないので書いていないこととかもあるので、知りたかった点が書かれていないなどあれば、是非無料相談もご利用下さい。詳細は下記のURLの一番下に記載されています。

プロコミットパートナーズ法律事務所の無料相談ページはこちら

 

1. 設立段階

(1) 持株比率について

まず、一人で会社を設立するのか、二人以上で会社を設立するのかによって全く異なってきます。二人以上の場合、何といっても持株比率について吟味する必要があるためです。

一人の場合は当初は創業者の持株比率は当然100%となりますが、二人以上の場合、色々なバリエーションが考えられます。

資本政策に絶対の正解というものはないのですが、一般的に、創業者間で完全に均等な持株比率とするような資本政策とするのは失敗事例が多いと言われている気がします(私もこのパターンで失敗したケースをいくつか見ています。)。「一緒に創業する仲間だから良いじゃん!」みたいな気持ちを抱くのは人としては当然ではありますが、完全に平等にしてしまうと、①最終的な意思決定者の所在と責任が不明確になる、②万一揉めてしまった場合にデッドロックになる、③資金調達の際にマイナスに働くといった問題が生ずると考えられます。

①については、例えば、創業者が80%の持株比率である場合、法的にも最終的には創業者が基本的に単独で決定できること、そもそも一人に80%寄せているということはきちんと役割分担(合議でまとまらない場合に誰が意思決定するのか等)について話し合われていることが多いなどの理由から、共同創業者間で意見の相違が生じた場合にも最終的には代表が決めることで、スタートアップ・ベンチャーにとって大罪の一つである意思決定が遅れることが防げていることが多いように見受けられます。

②について、似たような話を聞いたことがある人も多いのではないかと思いますが、二人で50%ずつ株式を持ち合って起業したものの、完全に仲違いしてしまい、にっちもさっちも行かなくなったようなケースがあげられます。これも、一人に株式を寄せている場合(特に3分の2以上一人で保有している場合)には、法的には完全に持株比率の大きい創業者の方が有利であるため、持株比率の小さい創業者が自ら身を引くことで事なきを得ているケースが多い気がします。

③は①と②の裏返しみたいな話なのですが、投資家は、経験上代表取締役の持株比率が大きい方が成功しやすいことを知っているので、共同創業者の持株比率が同一であるようなスタートアップ・ベンチャーは相対的にマイナス評価を受けることが多いのではないかと思います。私も、エンジェル投資の話が来た場合には、この点は必ず確認するようにしています。

但し、創業者が同じくらいの持株比率である会社でも、上手く行っているケースが全く存在しないわけではないため、どうしても一緒に創業したいメンバーがいて、その条件でないとジョインしたくないと言われているような場合には、次に出てくる創業者株主間契約の取り決めをしっかりしておいて先に進むこともまたスタートアップ・ベンチャーという気はします。

(2) 創業者株主間契約について

私が弁護士になった2010年の時はほとんど見かけませんでしたが、最近のスタートアップ・ベンチャーにおいては、創業者株主間契約の普及率はかなりのものになってきています。創業者株主間契約とは、創業者間での株式の取り扱いについて定めるもので、基本的には創業者が会社を辞めた場合に、会社に残る創業者が辞めた創業者に対して株式を売り渡すことを請求できる内容が根幹部分です。ちなみに「創業者」株主間契約という用語が一般に定着していますが、名前はともかく、基本的に会社の役職員に株式を渡す場合全般において、この契約を締結することが原則だと思ってもらった方が良いと思います。

今回このブログの公開と同時に、創業者株主間契約のひな形も下記で公開しておいたので、まずはこちらをご覧いただければと思います。

創業者株主間契約のひな型はこちら

今回のひな形のポイントとしては、①創業者のどちらかが辞めた場合において、②会社に残る創業者は辞めた創業者が保有する全ての株式の譲り渡しを請求でき、③その際の金額は辞めた創業者がその株式を取得するために支払った金額と同額という建付けとしています。

①については、特に一人の創業者の持株比率が大きい場合には、今回のひな型とは異なり、当該創業者は辞めないことを前提に、他の創業者が辞めた場合にのみ譲渡を請求することができる立て付けとしておくことが多いです。

②については、このような建付けではなく、辞めた時点までの在籍年数に応じて、辞める創業者の株式の一部は譲渡の対象とならないとする、いわゆるリバース・ベスティングの条項を付けることも考えられます。ただ、個人的にはリバース・ベスティングつけない方が正直お勧めです。なぜかと言うと、基本的には契約書は最悪の事態を想定して締結すべきと考えているからです。つまり、創業者株主間契約はどちらかが会社を離れる場合のためのものですが、会社から離れるということは、お互いの関係値が最悪になっている可能性があるからです。

例えば、未上場の会社だとエクイティファイナンスを行う場合やストックオプションを発行する際に株主総会を経由することとなりますが、その際、全株主に招集通知を発送する必要があります。エクイティファイナンスやストックオプションの内容は機密性が高い情報ですが、それを辞めた人物(しかも関係が最悪になっている)に伝わることは避けたいと考えるのが一般的ではないでしょうか。また、日本のスタートアップ・ベンチャーのM&Aにおいて、もっとも利用されているのは100%の株式譲渡のスキームだと思いますが、株式譲渡は相対取引ですので、辞めた創業者が株を持ち続けていた場合、M&Aの実行に支障が出る可能性があります。会社法上株式等売渡請求や株式併合等のスクイーズアウトの制度は存在するものの、時間がかかることと、最終的には裁判所で金額を決めるシステムであるため、使用できる場面は限定的です。後述の投資契約等のところで出てくるドラッグアロングライトを創業者株主間契約上定めておくことも考えられますが、契約に従ってくれない場合には裁判を提起する必要があるとか、そもそも連絡取れなくなっている可能性とかも考えると、やはり辞めた瞬間に全株式を回収できるようにしておいた方が無難だと思います。

上記のとおりあくまで関係値が最悪になっている可能性を考えて契約上は全株式を譲り渡すことを請求できるようにしておくということに過ぎないので、実際に辞める際に友好な関係を維持できているような場合には、改めて契約を締結し直すなどして、一部の株式は辞める創業者に残しておいてあげているケースも散見されます。

③については、元々払った金額しかもらえなんて酷じゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは②と連動する話で、残ることとなる創業者が払えるレベルの金額にしておかないと、辞める創業者が株を持ったままになってしまうということが理由です。なので、この点については、多少アレンジをして、取得価額と純資産価額のどちらか高い方の金額にするとか、それに加えて株価の上限額を定めておくなど、最終的に残ることとなる創業者が全額払えるレベルの修正を加えることはありなのかなとは思います。

なお、③については、その時点の時価によっては株式を低額で譲り受けるものとして贈与税が発生することとなるため、実際に権利を行使する前に必ず税理士さんに相談するようにして下さい。ちなみに契約書上、株式譲渡の相手方として、会社に残る創業者本人だけでなく、創業者が第三者も指定できるようにしてあるのは、贈与税が多すぎて単独では譲り受けきれないといった事態も想定したものです。

(3) その他設立について

設立の際のよくある失敗として、株式数を少なくしてしまうことがあります。「資本金100万円だから、株式も分かりやすいように100株にしておこう!」みたいなことをやると、外部から株式を調達する際やストックオプションの発行を行う際に1%単位でしか設定できないみたいなことになってしまうので、株式数は10万株以上にしておいた方が良いんじゃないかと思います。万が一既に100株で設立してしまった場合でも、株式分割すれば良いのですが、少なくとも登録免許税として3万円かかってしまうのと、登記するために株主総会開いて議事録作るなどしなければいけないので、最初から株式数は多めにしておきましょう。

あと、箇条書きで定款の内容を決める時の留意点を記載しておきます(そこまで重要性が高くないので、力尽きました・・・)。

・会社の目的を狭く書きすぎないように
・総会の議事録について出席取締役も押印する内容を定めると取締役が増えた際に面倒
・総数引受契約や割当は取締役決定で決定できる内容を定めておいた方が良い
・相続の際に株式の買い取りを請求できる旨を定めておく方がおすすめ
・総会の招集通知発送は1週間ではなく3日くらいがお勧め
・取締役の任期については当初は10年など長い期間としておくのが登記の手間が省けてよい(但し、外部役員を選任する段階で短くすることを検討した方が良い。)
・電子公告のURLで自社ではないサイトを指定するのは避けた方が良い

私は、会社の設立については、そこまで難易度が高くないのと取返しがつかないミスが発生しにくいので、弁護士に依頼しなくても良いというスタンスを取ってきていました。しかし、地味に定款の内容がおかしかったりして後で整理に無駄な費用と時間がかかるケース(あり得ないと思うかもしれませんが、会社法成立後に株券発行会社として設立されているようなケースもありました。)がなくならないのと、初めて法律相談に来た時点で、既に取り返しのつかない失敗をしているケースがいつまで経ってもなくならないので、設立段階からの相談も増やしていきたいと考えています。設立手続までこちらにご依頼いただかなくとも、無料設立サービスで定款を作ったらちょっと不安な点があるような場合には、上記で書いている通り無料相談も受け付けていますので、お気軽にご相談下さい。

スタートアップ・ベンチャーの弁護士をやっていると、本当に「あと少し早く相談に来てくれれば」「一言弁護士に相談してくれれば」みたいな事態に遭遇することが少なくありません。今回のブログも、当然事務所のマーケティング目的もありますが、業界の情報の非対称性を少しでも解消できる一助になればと思って書いている面もあります。

 

2. 資金調達について

(1) 資金調達の手法について

ビジネスを始めるには先立つものが必要ですが、まずはどうやって資金を調達するかの手法を考えましょう。具体的には、①全て創業者の自己資金で賄う、②家族・親族・友人等から借り入れる、③銀行等から借り入れる、④エクイティで第三者から調達することなどが考えられます。以下少し詳細に見ていきたいと思います。

①については、メリットは何と言っても、それ以降の行動に制約がかからないことです。②から④は何かしらのしがらみが発生しますが、①であれば、失敗しても自分のお金がなくなるだけですし、資金調達との関係で何か制約を受けるようなこともありません。デメリットというか問題点としては、そもそもお金を持ってない場合にはこの手段はとれないこと、また、ある程度持っていたとしてもその範囲でしか当初ビジネスに投資することができないことから、ビジネスのスピードが遅くなってしまうことがあげられます。色々な意味でスピードが重要であるスタートアップ・ベンチャーにとっては、スピードが遅いこと自体がリスクになるケースがあるため、二桁億円以上のExitを狙うスタートアップ・ベンチャーだと、①のみというケースはあまり見ない気がします(逆に一桁億前半程度のスモールExitを狙って自己資本でというケースも徐々に増えている気はします。)。

②のメリットは、③と④と比較すると、近い関係であるがゆえに金利や返済期限などの関係で有利な条件で貸付を受けることが出来るのが通常です。デメリットは当たり前ですが事業に失敗して返済できなくなったような場合人間関係に悪影響が生じることはもとより、貸主の人の人生にも悪影響を与えてしまうこととなります。従って、貸してくれる人と相談の上、万一返せなくなってもその人の人生が取り返しのつかない程度の金額に留めておいた方が良いかなと思います。

いわゆるスタートアップ・ベンチャーの場合、①と②だけでExitまでの資金を賄えることはレアだと思いますので、③と④を検討するケースが大半だと思います。

③のメリットは、④と比較すると成功した場合のコストが安い点です。エクイティの場合には、上手く行った場合には何倍もの(場合によっては何千倍もの)リターンが投資家に支払われることになりますが、③の場合にはせいぜい数%の利息と元本を返済すればそれで終わりです。また、返済さえしてしまえばそれ以上貸し手から何か言われることがなくなるという点もメリットとして挙げられると思います。デメリットは、返済が前提となっている点で④と比較すると成長スピードの観点から劣ること、ある程度数値的な実績がないと大きな金額を借り入れることはできないこと、連帯保証人として個人としても責任を負わされることなどがあげられると思います。なお、日本政策金融公庫の新創業融資制度は、原則無担保・無保証で借入ができるため、スタートアップ・ベンチャーでも利用している会社が多い印象です。スタートアップ・ベンチャーは仮説が検証されていないビジネスを、リスクをとって実施するのが通常ですので、自社が成功すると確信を得る段階まで連帯保証が必要な借り入れは避けておいた方が無難ではないかと考えます。なお、IPO審査との関係でも、上場時点では連帯保証を外すように求められるのが通常ですので、IPOが近づいてきたら借入れ段階で連帯保証を外すよう交渉するか、少なくともIPOする場合には外してもらえるのか確認しておいた方が良いです(外せないという金融機関もあるとの認識です。)。

④のメリットは、③とは反対で、利子の支払がなくかつ原則として返済の義務がない点(後述のとおりCBは少し異なります。)、数字の実績がなくとも相対的に大きな金額を調達することができる点(当然ですがステージが進むに従って数字も必要になってはきます。)、連帯保証人のように単に事業に失敗した場合に自らが支払義務を負わされることは通常ない点などがあげられます。また、投資家によっては、取引先候補の紹介、バックオフィスの支援など、単に金銭だけに留まらない支援を行ってくれることもあります。

(2) エクイティファイナンスについて

(i) エクイティファイナンスの手法について

(1)の①から③については、あまり弁護士が関与する部分が大きくないのと、スタートアップ・ベンチャーの場合において法律が最も絡むのが④のエクイティファイナンスであるため、以下、エクイティファイナンスについて説明します。

最近のスタートアップ・ベンチャーの場合、(ア)普通株式の発行、(イ)優先株式の発行、(ウ)J-KISS(コンバーティブルエクイティ)の発行、(エ)みなし優先株式の発行、(オ)CBの発行、あたりが主なエクイティファイナンスの手法ではないかと思います。

(ア)普通株式について

一番シンプルな手法です。通常創業者は普通株式を保有していると思いますので、それと同じ内容の株式を第三者に発行して、会社にお金を払い込んでもらうこととなります。他の手法と比較すると、通常書類の分量も一番少なくなり、かつ、登記手続も最も楽な手段で、法的な側面だけを見ると、スタートアップ・ベンチャー側にフレンドリーな手続となることが一般的です。但し、最終的なリスクは契約内容次第の面はあります。

(イ)優先株式について

(ア)普通株式の発行と比較すると投資家に有利な条件と言えます。「優先株式」とは法律上の正式な用語ではなく、普通株式よりも残余財産等の分配を受けることができる種類株式のことをこう呼びます。

優先株式の内容については、通常投資家側がひな形を持っており、それを元に内容を交渉して確定し、定款にその内容を定めることとなります。優先株式の内容のうち一番重要なものは、残余財産の分配を優先的に受けることができるというものです。「残余財産」というのは、会社を清算する際に残った財産を意味します。

会社を清算する際の分配のルールがなんで一番重要なんだろうと思ったかもしれませんが、まず一つの理由として、投資直後に会社を清算されてしまうことで損害を被ることを防ぎたいということがあげられます。例えば、創業者が1000万円を出資して作った会社に9000万円を投資家が普通株式で投資し、投資後の持株比率が50:50となったケースの場合(分かりやすくするために通常あり得ない持株比率にしています。)、この時点で会社を清算すると創業者が出資した1000万円と投資家が投資した9000万円を足した1億円を50:50で分配することになるので、投資家はいきなり4000万円損することになります。これが普通株式ではなく優先株式の場合、投資家は自分が投資した9000万円分の優先的な分配を受けることが可能になります。ただ、会社を清算することについては、投資契約で制限することもできるため、優先株式にする本命の理由は次のみなし清算にあります。

みなし清算というのは、M&Aが発生した場合に会社が清算したものとみなし、残余財産を分配する場合と同じルールでM&Aの対価を分配することを意味します。なんでそんな回りくどい決め方にするのかというと、優先株式の内容として定められる事項は、会社法上に定められた9つの事項に限定されているからです。そして、M&Aの際の対価の分配のルールはここでの9つの事項に入っていないため、まず会社法上認められている優先株式の内容として残余財産の分配の優先を決めた上で、それと同じルールとすることを契約又は定款で別途決めているのです。

先ほどのケースを前提に10億円で会社が買収される場合のことを考えると、投資家が普通株式で投資した場合には10億円を50:50で分けることになるため、創業者がもらえる金額は5億円です。一方、投資家が優先株式で投資した場合には10億円のうち9000万円が投資家に優先的に分配され、残りの9億1000万円を投資家と創業者が50:50で分けることになるため、創業者がもらえる額は4億5500万円となり、普通株式の場合と4500万円も異なることとなります。

このように法的には優先株式の方が断然投資家に有利であるため、普通株式での調達の方が良いじゃないかと思うかもしれませんが、必ずしもそうとは言い切れません。

まず、一般に普通株でのファイナンスより優先株でのファイナンスの方が高い株価がつくと言われています。上記のとおり優先株の方が普通株式よりも多く対価をもらえる可能性がある以上、ある意味当然ですね(但し、優先株にしたからいくら株価が高くなるかの明確な基準はありません。)。

また、単純にある程度金額の大きいファイナンスの場合には、普通株式で投資してくれる投資家を探すのが難しいことが実態としてあります。特にファンドを組成して投資している投資家はファンドのLP(ファンドに投資してくれている出資者)に対して善管注意義務がありますので、よりリスクの低い優先株式を求めることはある意味当然と言えます。

加えて、M&Aの場面では、優先株式により投資家が優先分配を受ける立場であるが故に、起業家が希望するM&Aが実行可能になったというケースもあります。どういうことかといいますと、前提として投資家から投資を受ける場合、M&Aについては投資家の事前の承諾なく実行してはならないという条件が契約上定められることが通常です。そして、例えば投資家が3000万円投資実行し、創業者:投資家=90:10の持株比率となった場合(=ポストのバリュエーションが3億円の場合)において、この会社を2億円で買収したいという話が来た場合において、創業者は、現状のままだとこれ会社のキャッシュフローが尽きる可能性が高いためM&Aに応じるしかないと判断していたとしても、投資家が普通株式で投資していた場合には、投資家は2億円×10%=2000万円しか対価を得られず、この案件がマイナスで確定してしまうため、かかる投資家から契約上の承諾を取り付けるのはハードルが高いと考えられます。一方で、優先株式で投資を受けていた場合、投資家は2億円のうち3000万円を優先的に受領することができ、さらに残った1億7000万円×10%=1700万円の対価を受領できるため、このケースの方が格段に契約上の承諾を得られる可能性は高いと考えられます。

なお、上記はM&Aの場合ですが、IPOのことを考えると、基本的には対価の分配は優先株式と普通株式で変わらないことが多いです。なぜなら、IPO時点において優先株式は原則的に全て普通株式に転換することを求められるのですが、通常優先株式1株につき普通株式1株に転換されるためです。「基本的に」と書いたのは、優先株式の内容としてダウンラウンド(優先株式を発行した時よりも株価が下回るファイナンス)が発生した場合には優先株式1株につき交付される普通株式の数が増えることになります。

交付される普通株式の数がどのように増えるかについては、大きく分けて、加重平均して計算する方法と、フルラチェットという方法があり、加重平均して計算する場合には新株予約権等の潜在株式を含めるブロードベースという方法と、潜在株式を含めないナローベースという方法があります。この点については、ブロードベース>ナローベース>フルラチェットの順で起業家側に不利になっていく、フルラチェットは厳しい条件なので避けるべき、ブロードベースとナローベースはそこまで変わらないので最悪譲っても良いくらいに覚えておけば良いかなと思います。

(ウ)J-KISS(コンバーティブルエクイティ)について

J-KISSはCoral Capitalさんが公表している手法で(https://coralcap.co/j-kiss/ )、法的には新株予約権の発行と位置付けられます。リンク先にひな形も含めて色々と書いてあるので、優先株式ほど細かい説明はしませんが、ポイントを絞って解説したいと思います。なお、J-KISSはあくまでCoral Capitalさんの公表されているものを意味するもので、新株予約権で投資して後で株式に転換されるコンバーティブルエクイティの手法はJ-KISSに限られるものではありませんが、実務上J-KISSが使用されているケースが多いこと、それ以外の契約内容は案件によって千差万別ですので、今回は基本J-KISSの内容を元に解説させていただきます。

まず、J-KISSが使用される一番の理由はバリュエーションです。J-KISSはシード期のスタートアップ・ベンチャーのファイナンスに使用されることが多いですが、シード期ですと、売上等の数字が存在しない、サービスが完成していないなどの理由により適切にバリュエーションを設定することができない、又は本来のバリュエーションだと安すぎて投資家の持株比率が高すぎるなどの問題が生ずることがあります。J-KISSは、このような問題に対処するために、J-KISSを発行する段階では株価を確定せず、次に株式のファイナンスが起きた場合(一般的には、一定金額以上の調達額に達した場合)にそのファイナンスのバリュエーションに連動させてJ-KISS発行の際に振り込まれたお金を株式に転換するというスキームとなっています。

どういうルールでJ-KISSが株式に転換されるかにあたっては、「ディスカウントレート」と「バリュエーションキャップ」という二つの用語が重要となってきます。

「ディスカウントレート」は、名前のとおり割引率を設定するものです。前述のとおり、J-KISSにおいては次の株式のファイナンスのバリュエーションに連動させて株式に転換するのですが、次のファイナンスの際の株価を一定程度割り引いた金額でJ-KISSを株式に転換するということです。ディスカウントレートが20%で、J-KISSの次のファイナンスの株価が1万円だったとしたら、1万円から20%割り引いた8000円が1株あたりの金額になるということですね。

「バリュエーションキャップ」は、転換する際のバリュエーションに上限を定めるものです。例えば、バリュエーションキャップが5億円で、次のファイナンスのプレのバリュエーションが10億円だった場合、株価を決める元となるバリュエーションが半額ということになるので、J-KISSの次のファイナンスの株価が1万円だったとしたら、5000円が1株あたりの金額になるということですね。

なお、J-KISSは2022年4月に新バージョンが公開されています。詳細はもの凄く複雑になるのでここでは省略しますが、基本的にはバリュエーションキャップの計算上、新バージョンの方が投資家に有利になっている(J-KISSが多くの株式に転換される)ので、起業家としては、J-KISSを使用する場合にはなるべく旧バージョンで投資を受けるよう交渉した方が良いと覚えておくのが良いと思います。

そして、ディスカウントレートとバリュエーションキャップを利用して算出された1株の金額のうちより低い金額で株式に転換されることとなると定められているのが通常です。

なぜディスカウントレートやバリュエーションキャップが設定されるのかというと、J-KISSの投資家は次のファイナンスで投資する投資家よりもより早い時期にリスクをとって投資を実行しているので、全く同じ株価だと割に合わないという理屈ですね。

なお、ディスカウントレートとバリュエーションキャップは設定しないことも可能です。両方とも設定しないことも可能なのですが、上記のとおりJ-KISSの投資家はリスクを取っているので、流石にどちらも設定しないことはレアケースな気がします。あと、VCの場合にはどちらも設定しているケースが大半だと思います。

一方で、エンジェルラウンドの場合にはバリュエーションキャップは設定していないケースもある程度見られる気がします。この点、Coralさんが公表しているひな形においてバリュエーションキャップが設定されている内容なので、何も考えずそのまま埋めてエンジェルから投資を受けているようなケースも散見されるのですが、エンジェル側としてはディスカウントレートさえ設定していればそれで良いと言ってくれるケースもあるので、きちんとひな形の内容は理解して使った方が良いと思います。

J-KISSが転換される株式の種類については、次回ファイナンスが普通株式の場合には普通株式、優先株式の場合には優先株式となります。少しテクニカルな話をすると基本的には次回ファイナンスの優先株式と同じ内容の優先株式に転換されるのですが、法的には異なる種類の株式となります。例えば次のファイナンスの株式が「A種優先株式」という名前だった場合、J-KISSは「AA種優先株式」や「A2種優先株式」といった名前となることが多いです。何が異なるかというと、優先株式の内容のところで述べたとおり、優先株式の残余財産の優先分配権は基本的に1株当たりの払込金額に連動させることが通常です。そして、J-KISSはディスカウントレートやバリュエーションが設定されているので、1株当たりに払い込まれる金額が異なることとなります。次のファイナンスの1株あたりの株価が1万円で、J-KISSがディスカウントレート20%が適用されて1株8000円だと仮定した場合、J-KISSがA種優先株式に転換されてしまうと、1株あたり8000円しか払い込んでいないにもかかわらず1万円の優先分配権を得てしまうこととなるため、基本的にはA種優先株式と同じ内容であるものの、残余財産の優先分配権等の1株当たりの金額に連動すべき事項については異なる内容の株式としているのです。

J-KISSはエンジェルラウンドやシードラウンドで使われることが多いので、同じくエンジェルラウンドやシードで使用される普通株式やみなし優先株式と比較してどちらが良いかを決めることになると考えます。

普通株式とJ-KISSを比較した場合のJ-KISSのメリットとしては、上記でも述べたとおりバリュエーションを確定せずとも資金調達ができる点や、J-KISSは株式ではないため株主総会等の事務手続等の負担が軽い点があげられます(但し、投資契約上の情報提供義務は別途果たす必要があり、また、次回ファイナンス以降は株式に転換されます。)。

デメリットとしては、手続上の負担が重い(発行時点で新株予約権の内容を登記しなければならず、次回ファイナンスの時にJ-KISSを株式に転換する段階でも登記をする必要があります。)、登録免許税が余計にかかる(発行段階で新株予約権の登録免許税として9万円がかかり、株式になる段階で再度資本金に連動した登録免許税がかかります。)、次回ファイナンスが優先株式である場合優先株式に転換されるあたりがあげられると思います。

なお、J-KISSの次のファイナンスは優先株式であるケースが多い気がするので、J-KISSを発行したら優先株式に転換されるものだと覚悟しておいた方が良いと思います。そして、感覚的にはバリュエーションキャップの金額で株式へと転換されているケースが大半ですので、特にバリュエーションキャップの金額については慎重に交渉した方が良いと思います。

(エ)みなし優先株式について

みなし優先株式は、法的には普通株式です。なぜ、みなし優先株式というかというと、次のファイナンスがあった場合には、J-KISSのように優先株式に転換されるからです。

J-KISSと比較すると、優先株式に転換される前の段階でも株式なので、みなし優先株主は議決権等の株主の権利を持っているため、株主総会の招集通知を送らなければならないなどの点ではJ-KISSよりこちらの方が会社側に不利と言えると思います。

一方で、発行手続としては、普通株式であるため、新株予約権であるJ-KISSよりこちらの方が楽です(新株予約権の方が、圧倒的に登記事項が多いため)。また、最初から株式なので、J-KISSにおける新株予約権発行の登録免許税9万円はかかりません。

また、一番の違いとしては、株式であるため、発行時点でバリュエーション(株価)を決める必要があります(強引にJ-KISSのように後で株式の数を変更させるような契約を結んでおくこともできなくはないですが、あまり見かけません。)。この点は条件設定次第でJ-KISSよりも有利にも不利にもなり得るところですので、どちらかを選択する場合には、両方の条件を吟味する必要があると考えます。

(オ)CBについて

CBは法的には新株予約権付社債に分類されます。名前のとおり社債に新株予約権がくっついていると理解すると分かりやすく、スタートアップ・ベンチャーのファイナンスの場合だと(ウ)のJ-KISSに社債がくっついたような内容となっていることが多いです。

(ア)から(エ)までとの一番の違いは、社債なので、基本的には弁済期限が到来したら金銭を返還する義務(会社法的には「償還」といいます。)があります。また、設定されていないケースもありますが、利息も設定されていることが通常です。従って、これまで説明した他の手法と比較すると、基本的にはもっとも会社側に不利な条件と言えるのではないかと考えます。一方で、事実上は、会社が社債の返済を行うことはかなりのレアケースで、実際には株式に転換されているケースが大半ではないかと思います。なぜなら、CBを発行後会社が上手く行っている場合には株式に転換した方が投資家にとってメリットがあり、反対に会社が上手く行かなかった場合には返還する原資がないためです。なお、後者のように返済の原資がなくなっていても、債務さえなくなれば投資するという投資家が存在するため転換するケースもあります。

どのような場面でCBが利用されているかについては、私の経験上だと、事業会社からの資金調達の場面(担当者はエクイティで投資したいけど、上の地位の人たちがリスクを気にする等)や、エクイティファイナンスできそうだけどその前にキャッシュアウトしてしまいそうな時に既存投資家などからブリッジファイナンスを受ける場合が多い気がします。CBの場合にもJ-KISSと同様ディスカウントレートやバリュエーションキャップが設定されることがあります。

CBの場合、一番気を付けるべきは連帯保証についてではないかと思います。上記でも述べたとおり、弁済期限が到来したら基本的に金銭を返還しなければならないので、何も考えず経営者が連帯保証人になってしまうと事業が上手く行かなくなった場合には個人で莫大な返済義務を負うこととなってしまいます。従って、契約の内容はしっかりと確認して、リスクを承知の上で連帯保証するのか、場合によっては契約違反等があった場合にのみ個人として責任を負う内容にするなどの対応をとった方が良いと考えます。

CBを発行する場合、株式やただの新株予約権よりも、金融商品取引法上の「募集」に該当しないようにするための記載事項や、社債管理者の設置が必要にならないようにするための個数設定、現物出資規制の問題など、法的にひっかかりやすい部分が多いので、CBで資金調達する場合には、必ず弁護士の確認を受けた方が良いと考えます。

なお、アメリカではコンバーティブル・ノートといって、当初社債ではなく普通にお金を貸し付け、それを株式に転換するというスキームが存在し、一時期日本にそれを持ち込めないかという議論があったのですが、日本だと貸金業法の抵触の問題が生ずるため、あまり利用されていないとの認識です。

(ii)資本金について

株式を新規に発行した場合には資本金が増加することになります。J-KISSやCBなどの新株予約権の場合には、発行時点では資本金は増加しませんが、新株予約権の行使等により株式になる段階で資本金が増加することになります。

増資の際も新株予約権の行使等により株式になる場合も、会社法上は払い込まれた全額が資本金に計上されるのが原則ですが、払い込まれた金額の2分の1を上限として資本準備金に計上することも可能で、実務上は可能な限り資本準備金に計上します。なぜなら、基本的には資本金を増やすメリットがあまりないからです。

まず、増資等の場合の登録免許税は資本金の増加額×0.007という計算式で算出されるところ、例えば10億円のファイナンスで10億円全額を資本金に組み入れると10億×0.007=700万円を登録免許税として納付しなければなりませんが、半額の5億を資本金に組み入れる場合には5億×0.007=350万円を登録免許税として納付すれば足りるため、350万円も差が出ます。

また、資本金が多いほど下請法上不利になる、資本金が1億円を超えると外形標準課税が適用されるなど、税負担が大きくなる、資本金が5億円以上になると会社法上の大会社となり会計監査人(監査法人)を設置しなければならなくなるなど、基本的には資本金が増えてあまりいいことはありません。

一方で、一定の許認可などを取得する場合には、資本金が一定額以上であることが求められるようなケースもあるので、規制業種の場合には、一定額に達するまでは全額を資本金に組み入れ続けることもあります。また、あまりにも資本金が少ないと取引先として信用を不安視されるケースもあるため、1000万円くらいまでは全額を組み入れているケースもあります。少し余談ですが、スタートアップ・ベンチャーのホームページを見ると、「資本金(資本準備金)●円」といった記載をしているケースがそれなりに多く見受けられます。これは、資金的には十分調達できていることを示すためにトータルでの増資額を記載する一方、厳密な意味での資本金を増やすと上記のようなデメリットもあることから、このような記載をしているとの認識です。

なお、上記のとおり資本金が一定額を超えるとデメリットもあることから(特に監査法人設置が必須となる5億円)、スタートアップ・ベンチャーの場合には減資をするケースも多いです。

減資について知っておいて欲しいのは、①行う場合には期末までに効力を発生させるように対応すること(そうしないと大半の減資の目的は達成できないと思います)、②減資を行う場合には急いでも2ヶ月程度かかる場合があること、の二点です。例えば、事業年度末が3月末日の場合、1月末くらいからは弁護士・司法書士に相談して準備を始めておいた方が良いです。

(iii) エクイティファイナンスの手続に関して知っておいた方が良いこと

まず未上場の場合には基本的に株主総会決議が必要になるので、総会の開催が必要になります。株主総会を開催にあたっては、取締役会(取締役)において株主総会を開催することを決議した上で招集通知を発送するのが原則です。

非公開会社において、株主総会の招集通知は一週間前までに発送しなければならないのが原則です。但し、取締役会非設置会社では短縮することが可能で、三日前までに発送すれば良いと定められていることが多いです(短縮されていない場合には、他の株主総会決議を行う際などに短縮しておくのがお勧めです。)。ここで気をつけなければならないのは、会社法上「一週間前まで」「三日前まで」という用語が使われている場合、中一週間、中三日を意味するということです。例えば、2022年6月30日(木)に定時株主総会を開催する場合、「一週間前まで」に発送しなければならないというのは、2022年6月22日(水)中には招集通知を発送しなければならないことになります。

一方、スタートアップ・ベンチャーのファイナンスは、場合によっては資金ショートも迫っているなど時間との戦いであることが一般的です。上記の招集期間を守っていたら間に合わない場合には期間を短縮することが考えられます。具体的には、書面決議、招集手続の省略、招集期間の短縮のいずれかを行うことが考えられます。いずれについても、議決権を有する株主全員(種類株主総会については当該種類株主全員)の同意が必要となるため、この手続を行う必要がある場合には、それが決まった段階で既存株主に根回ししておいた方が良いです。

既に種類株主総会を発行している会社において、新たな種類株式を発行する場合には、種類株主総会が必要となるケースが多いため、気を付けて下さい。例えば、既にシリーズAを終えており、A種優先株式を発行している会社がB種優先株式を発行する場合、臨時株主総会だけでなく、A種種類株主総会と普通種類株主総会も開催する必要があります。なぜなら、「株式の種類の追加」「株式の内容の変更」「発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加」について、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会決議が必要とされているからです。最近は、種類株主総会を開催する手間を考慮し、投資家側としても法令上可能な範囲で種類株主総会を排除することに応じてくれるケースが増えていますが、そういった規定が定められている場合でも、この場合には種類株主総会決議が必要となります。なお、会社法上は上記の内容(定款変更)についてのみ種類株主総会決議を経ればよいのですが、定款において、増資の場合にはA種種類株主総会決議も経なければならないといった規定が定められている場合には、増資についても臨時株主総会だけでなくA種種類株主総会で決議しなければならないので気を付けましょう。

次に気を付けなければならないことは払込みのタイミングです。株式による増資の場合、払込期日を定めるパターンと払込期間を定めるパターンがあります。前者の場合、割当決議を行い、総数引受を締結した日(又は割当がされた日)から払込期日までのどこかのタイミングで入金がされないと登記が通りません。後者についても、払込期間中に入金してもらえないと登記が通りません。VC等は流石にあまり失敗しないのですが、エンジェルに関しては要注意です。例えば、エンジェルとしてはよかれとおもって、ちゃんと契約を結んでいない時点なのに「もう振り込んでおいたよ」と言ってくることがあります。また、勧誘段階では400万円を入金して欲しいと伝えておいたものの、株式数などの関係で、実際には1999円×2002円=4,001,998円が入金額となったにもかかわらず、400万円しか入金されていないなどのケースは珍しくありません。従って、エンジェルから投資を受ける場合には、「●日から●日のどこかに●円全額着金するように、支払いをお願いします。」というような形で明確に指示を行っておいた方が良いです。なお、上記の400万円しか入金されていなかったパターンにおいて、追加で1998円が入金されれば問題なく登記は通るので、出来れば余裕をもって払い込んでもらった方が望ましいです(早すぎると上記のとおりダメなのですが。)。ちなみにエンジェルの注意点としてもう少し書いておくと、エンジェルは契約内容をちゃんと確認してないことも多く、特に、最後押印手続を開始した後においてやっぱり住所が最新のものではないとか言ってきたりもするので、契約内容に誤りがないかについては念押しして確認しておいた方が良いと思います。

なお、既に一度ファイナンスをしている場合、既存の投資契約や株主間契約等において、事前承諾事項や優先引受権が定められている場合があるため、この点の手続を履行しなければならない点に留意して下さい(抜けているケースが多いです。)。この点については、最初のファイナンスから一貫して、契約のレビューと登記を当事務所にご依頼いただいていれば、特に何も言われなくても当事務所で必要な書類等を作成して対応させていただいております。

(iv)投資契約について知っておいた方が良いこと

投資契約とは、投資を受ける際に投資家と締結する契約のことを意味します。「投資契約」と総称して呼ばれることが多いですが、決まった名前があるわけではありません。また、特にラウンドが進むと、一つのドキュメントではなく、2通か3通のドキュメントで締結することが多いですが、以下便宜上「投資契約」で統一します。

エンジェルから投資を受ける場合にはいわゆる投資契約は締結せず、登記に必要な最小限度の書面だけ交わすことも多いです。投資契約を締結する場合でも、あまり会社側の義務が重くない内容とすることが多いです。

投資契約の詳細について言及すると本が一冊書けてしまうので、今回は大枠のスタンスとして知っておいた方が良い事項について書こうと思います。

(ア)投資家の情報を知ろう

投資契約の内容に限ったことではありませんが、投資家側の情報を知っておくことは非常に重要です。

まず、投資を実行するエンティティがファンドなのかどうかを確認しましょう。なぜならファンドはファンドに投資する投資家からお金を集めてスタートアップ・ベンチャーに投資しているのですが、投資家にはいつかお金を返さないといけないので、ファンドには満期が設定されています。そして、満期までには一度投資した株式等を換金して投資家に分配する必要があります。これがスタートアップ・ベンチャー側にどう影響するかというと、ファンドの満期の前後で投資家は絶対に株式を処分しなければならないということです(なお、一般的には、満期は1~2年程度延長できることになっていることは多いです。)。

具体的には、投資契約において、少なくともファンドが近づいた場合にはファンドは株式を譲渡することができ、かつ、発行会社と経営陣はこの譲渡を承認する手続に協力しなければならないことが定められていることが通常です。従って、この時点において、元々貴社として「このファンドなら」と考えてなってもらった株主が変わってしまうということになります。

また、最近だと、少なくともシリーズA以降はドラッグアロングライトといって、一定の条件を満たした場合には、投資家側が会社の全株主に対して、買収に応じるよう請求することができる権利が定められるのが一般的になってきています。ドラッグアロングライトについては、トリガーの設定次第で会社側のリスクは変わってきます。一番リスクが大きいのは、投資家側の過半数等が賛成したら発動できるなど投資家側の一存で発動できるパターンで、リスクが低いのは経営株主の同意が必要なパターンだと思いますが、当初は経営株主の同意がある場合に限定する場合でも満期がある場合にはいつまでも売れないとファンドを解散できないので、一定時期からは経営株主の同意を不要とするケースも見かけます。

なお、会社法上、スクイーズアウトのための特殊な手続をとるなどの一部の例外を除き、少数株主を強制的に排除することはできないため、経営株主の同意なく発動できないドラッグアロングライトであれば、むしろ発行会社側にとってもメリットはあると言えます。

(イ)交渉は交渉前の準備が重要

まず、投資契約の交渉において、最終的に納得できる内容で妥結できるかについては、交渉前に勝負が決まっていることも多いです。投資契約の交渉に限りませんが、どんなに説得的な理由を相手方に伝えたとしても、相手方がNOと言い続けた場合、こちらとしてもNOと言える状況でないと、結局相手方の言い分を飲むしかないからです。

すなわち、交渉していても後ちょっとでキャッシュが尽きる場合(しかも投資を受けるためには経営状況に関する資料を投資家に提出する必要があるのが通常なので、相手方はそれを知っています。)や、投資を受ける必要があるにもかかわらず他に投資家候補が存在しないような場合、中々良い条件を受けるための交渉をするのは難しい面があります。資金繰りに悩んだことがある人なら分かると思いますが、そのような状況の中でハードな交渉をして相手方に交渉を打ち切られてしまう恐怖を考えると、真っ当な交渉ができない可能性もあります。

従って、資金調達については時間に余裕を持って始めることや、最悪のことを考えてバックアッププランを用意しておくのが理想と言えます。特に資金調達完了までの期間については、予定通りに完了しているスタートアップ・ベンチャーは極めて稀と言っても過言ではないと思います。ファイナンスは計画どおりにいかないという前提のもと、最悪の状況でも生き延びることができるように検討しておいた方が良いと考えます(頭では分かっていても中々実行するのは難しいのですが・・・)。

(ウ)実態との整合性は自分達で

投資契約には表明保証といって、その時点で一定の事項が事実であることが間違いないことを確約させられます。例えば、会社が適法に設立されていることや契約締結に必要な手続がきちんと実施されていることなどがあげられます。基本的には、そこまで不合理な内容が定められていることはないものの、そのまま受け入れてしまうと表明保証違反となってしまうことは珍しくありません。例えば「会社に訴訟は係属していない。」と書かれているのに実際には裁判しているようなケースですね。このような場合は、「但し、●株式会社との●に関する訴訟は除く。」などと規定し、カーブアウトすることで違反とならないようにすることが通常です。

顧問弁護士であればある程度は会社の状況を把握してはいますが、何から何まで顧問弁護士に相談しているわけではないと思いますので、上記のように形式的に表明保証違反となってしまっているかについては自分たちで確認する必要があります。確認した結果違反が生じている場合にはその内容を弁護士に伝えれば上記のような修正案を作ってくれます。

また、ちょっと違う話なのですが、事前にVCにリクエストしていたのに条件が契約に反映されていないことも散見されます。これは、悪意をもってやっているのではなく、担当者がドキュメンテーションに弱いために発生してしまっている事象であることが多い気がします。ですので、そのような条件がある場合には、必ず自社側の弁護士に伝えておき、その条件が投資契約に反映されているか確認してもらうようにしましょう。

(エ)法的なリスクだけでなく、対応コストも考えておく

法的なリスクというのは、巨額の支払義務を負わされるような買取義務の規定だったり、逐一投資家にお伺いを立てないと何もできなくなったりするような事前承諾の規定だったりしますが、これらについては専門の弁護士による法務チェックを経れば、少なくともリスクを把握した上で締結することができると考えられます。

一方、法的な観点からはリスクが低い規定であっても、対応コストがかかる規定もあり、こういった規定については弁護士としてどこまで指摘するのか悩ましい面もあります。

例えば、一定の事項を決定する場合や一定の事項が発生した場合には投資家に通知するという規定は、通知さえしてしまえばよいため、法的なリスクが低い規定に分類できると考えられます。一方、通知さえすれば良いと言っても、あまりにも通知事項の対象が多かったりすると対応のコストがかかることとなり、会社にとって負担となる可能性があります。

ある程度バックオフィスの体制が整ってきている会社であれば、多少この点の負担が発生しても大きな問題はないと考えられますが、社長がバックオフィス業務も実施しているようなスタートアップ・ベンチャーの場合、会社の成長にとってもマイナスとなってしまいます。流石に、弁護士もバックオフィスの業務状況まで正確に把握していることはあまりないと思いますので、契約書を読んで、投資実行後に自分たちは本当にその内容を守ることができるのかということを考えてみましょう。

(オ)弁護士には何でも言ってみる

私が資金調達の案件を受けた場合に考えているのは、(i)迅速に資金調達を完了するための力になる、(ii)会社や経営者にとって致命的なリスクは何とかして排除する、(iii)やむを得ないリスクについてはそれが現実化しないように規定の調整を図るorそうならないように会社側にリスクを認識してもらい、将来違反が生じないようにするための注意換気をする、(iv)(ii)や(iii)の目的は達成しつつも、会社側と投資家側の関係に悪影響が生じないようにする(自分が悪者になるのはOK)などです。

上記から何となく伝わると思うのですが、なんだかんだいって投資家はリスクをとって大金を出してくれる貴重な存在であり、投資を受けた後は基本的に同じ目標に邁進していく仲間でもあるので、譲れないところは毅然と交渉しつつも、ある程度は投資家の立場に配慮したスタンスで契約書のレビューや修正などの対応を行うのが基本的なスタンスになります。

一方、上記のようなスタンスでレビュー結果を返した後、「うちの会社の状況と投資家から説明を受けていると投資契約書のこの部分についてはもっと当社に有利なように修正できるのではないかと考えられるのですが、難しいのでしょうか?」といったコメントが返って来ることがあります。そして、これに対して「一般論としてはそのような修正は投資家が受け入れないことが多いのですが、確かにそのような状況であればいけそうな気がするのでやってみましょう。」と返してチャレンジしてみると通るケースもあります。最初からそのような状況を察してかかる条件を提示できなかったのはまだまだ私の実力不足という点もあると思いますが、過去の経験から最大公約数的に最善と考える手段を提示するという方法は私以外の弁護士以外も採用しているのではないかと思いますので、何か自分で思いついた点があれば遠慮なく言ってみるのが良いのではないかと考えます。

なお、契約に関して、少しでも読み方に自信がない箇所がある場合には弁護士に相談するようにして下さい。起業家の方が契約書の内容を読み違えていることは少なくないからです。弁護士としてはちゃんと対応しさえすればリスクの低い規定と考え特にコメントしていないような場合でも、起業家が読み間違えていると、「対応しさえすれば」の対応が抜けてしまって契約違反になってしまうようなケースもあります

(カ)ラウンドごとに義務が重くなるのが普通で、軽くなることはあまりない

ので、外部から調達する際に投資契約等を締結する際には弁護士チェックを受けた方が良いですよというのが言いたいことです。

エンジェルやシードラウンドだと調達金額が大きくないので、弁護士コストをかけたくないと考え、そのまま自社チェックだけでファイナンスしているケースも多く、気持ちはもの凄く分かります。ただ、基本的には次のファイナンスの際には、新規投資家は既存の投資家と締結している投資契約の内容を確認しているケースが多く、そして、新規投資家の方が出す金額も多く強い立場にいることが多いため、既存の条件+αの条件の投資契約書等となることが多いです。つまり、シリーズAとかBから弁護士チェックを入れてその段階で修正してもらおうとしても、既存投資家からは「一度受け入れてもらったものをこちらの不利に変更するのはちょっと・・・」と、新規投資家からは「シード段階の投資家に与えられている権利なのに、シリーズAのリード投資家であるうちがその権利をもらえないのはちょっと・・・」と言われる可能性が高いということです。

その時点で弁護士コストが痛い出費というのは分かるのですが、せめて一回だけでも全体をレビューして致命的なリスクがないかは確認してもらった方が良いのではないかと思います。

(キ)NDAは締結すべきか

「調達の話を進める際にNDAを締結すべきか」は時々ベンチャー業界で話題になりますが、個人的には外部に開示してもよいレベルの情報を話すレベルに過ぎない際にはないまま話を進めても良いと思いますが、基本的には他社に知られると困るクリティカルな情報を開示する際にはNDAを締結すべきだと思っています。また、特許の出願を検討しているような知財ベンチャーの場合にはNDAの締結が必須でしょう。

なお、仮にNDAを締結した場合でも、その効力には限界がある点に留意しておく必要があります。すなわち、NDAにより損害賠償を請求するためには、少なくとも①NDAに違反した事実と、②①から因果関係の認められる損害が発生したことの立証が必要となりますが、①は先方側の事情であるため違反している事実自体を補足することが非常に難易度が高く、①を補足したとしても、②それの違反から自社にどの程度の金銭的な損害が発生しているのかを立証することはかなりハードルが高いためです。従って、NDAを締結した場合でも、投資を受ける蓋然性が高まっていないような段階では、どこまでコアな情報を出すかについては慎重に検討した方が良いです。投資を受けた後も、同じ問題はあるのですが、投資を受けた後は、投資家もこちら側の秘密を守るインセンティブが発生しているので、リスクは減少していると言ってよいと思います。

上記のようにNDAの法的な効力には限界があるものの、重要な情報を開示する場合にはNDAを締結しておくべきだと思います。なぜなら、過去何回か、投資の話をもちかけられて情報を開示したところ、同種の事業を開始されたという相談を受けたことがありますが、全てNDAを締結していないケースでした。悪いことをする奴ほど、法的なリスクをケアするものだなあという感想を抱いたのですが、逆に言えばNDAを締結しさえしていれば事実上そういった事態を阻止できる場合があるとも考えられます。

 

3. 株式譲渡と自己株式の取得の留意点

幹部クラスがジョインしてもらう場合に生株を渡すことや、逆に株式を持っている役職員が辞める場合にはその時点で経営陣に株式を譲渡してもらうことは珍しくないと思いますが、株式譲渡については手続に気を付けなければなりません。

エクイティファイナンスの場合と比較すると株式譲渡は問題が起こりやすいです。なぜなら、株式や新株予約権発行の場合には登記手続が必要となるので、不備があっても法務局で指摘されることが多いからです。また、仮に不備があったまま登記がされたとしても、その効力を争うためには会社法上「新株発行無効の訴え」「新株予約権発行無効の訴え」による必要があり、かつ、かかる訴えが発行の効力発生から1年以内に提起されなかった場合、発行は有効に確定するためです。

一方、株式譲渡の場合、①譲渡契約の締結、②譲渡承認請求、③譲渡承認決議、④承認通知、⑤名義書換請求という手続が必要になるところ、これは登記が必要になるものではないため、手続に漏れがあることが非常に多いです。特に、⑤の名義書換請求は、会社法上譲渡人と譲受人の連名で行うのが原則になっているところ、この手続が抜けているケースは珍しくありません。特に辞めてしまった人の押印が得られていないような場合には、かなり大きな問題となり得ます。

また、③の譲渡承認決議について、取締役会非設置会社の場合には定款で「代表取締役」が譲渡承認機関となっていることも珍しくありませんが、このような定めが置かれている場合であっても、その代表取締役自身が株式譲渡の当事者となる場合、利害関係があることから株主総会決議を経ておくべきという見解もあるため、そのような対応としておいた方が無難ではないかと考えます。

繰り返しですが、新たに幹部等としてジョインしてくる人に生株を渡す場合、前述の創業者株主間契約を締結しておいた方が無難ではないかと思います。

次に、辞める役職員から買い取るような場合やVCが満期を迎えて話し合いで株式を買い取るような場合において、経営陣にお金がない場合、会社で自己株式を取得することが検討される場合がありますが、自己株式の取得は要注意事項だと覚えておいて下さい。

なぜなら、会社法上、自己株式の取得については、①手続的な規制と、②財源規制が定められているからです。①については、適切に対応すれば対処可能なものなので今回は省略しますが、②は中々に難物です。

②について、前提として会社法上、「分配可能額」の範囲でのみ、会社は自己株式を取得することが可能です。そして、この「分配可能額」は基本的に剰余金の額を意味しますが、スタートアップ・ベンチャーの場合、Jカーブを描いているので、利益剰余金がマイナスになっていることが通常で、キャッシュがあっても自己株式を買うことはできない状況のことが多いです。場合によっては、減資を行い、資本金又は資本準備金の額を取り崩して剰余金の額をプラスにした上で自己株式を取得することもありますが、監査法人がついていない場合、後で監査を受けた際に剰余金の額が変動する可能性もあり得るため、かなり慎重に対応しましょう。

自己株式の取得に関しては、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金またはこれらの併科という重い法定刑が定められているので(会社法第963条)、IPO審査との関係でも、致命傷になりうるような重い問題です。なるべくならそもそもしない方が望ましく、もし実施せざるを得ない場合でも、専門家と相談の上慎重に対応すべき事項といえます。

自己株式の取得に関連してよく問題となるのが、会社から経営陣に対して金銭を貸し付け、それを原資として経営陣が株式を取得するパターンです。形式上は自己株式の取得に該当しないようにも見えますが、会社法上、自己株式の取得か否かは、会社の「計算において」行われたか否かで判断されるため、形式上譲渡人が会社でない場合でも、自己株式の取得規制に違反したと解される可能性はあります。従って、このような方法も避けておいた方が望ましいです。それでも実施する場合には、弁護士等への相談が必須だと思います。

 

4. 定時総会と役員選任の留意点(+株主総会一般の留意点)

会社を立ち上げて初年度を何とか乗り切った起業家は、初めての決算に立ち向かうことになり、頑張って決算を完了させ、定時総会を開催することを忘れます・・・

会社法上、定時株主総会は「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」と定められています(会社法第296条第1項)。そして、一般的には会社の定款において、事業年度の末日から3ヶ月以内に定時株主総会を開催しなければならない旨の規定が定められていると思います。

なぜ、3ヶ月以内かというと、確定申告は事業年度末から遅くとも3ヶ月以内に行わなければならず、確定申告では計算書類を提出しなければならないところ、未上場会社では、定時株主総会で承認された段階で計算書類が確定するからです。

上記では、「確定申告は事業年度末から遅くとも3ヶ月以内に行わなければならない」と書きましたが、税法上の原則としては、確定申告は事業年度末から2ヶ月以内に行わなければならないこととなっている点注意して下さい。この期間を一ヶ月伸ばすためには税務署への届出が必要となりますので、早い時点で顧問税理士に手続きをお願いしておきましょう。

定時総会の時期において、事業報告、計算書類、事業報告の附属明細書、計算書類の附属明細書の書類作成が必要となります。招集通知に添付するのは事業報告と計算書類だけなのですが(監査役設置会社の場合には監査報告書も必要になります。会計監査人がいるパターンは大分ステージが先なので、今回は省略します。)、会社法上は附属明細書の作成も必要となります。計算書類については確定申告に必要なので特に意識しなくとも税理士が作ってくれているケースが多いですが、他のものは忘れられるケースが多いので、注意するようにして下さい。

そして、定時総会に関しては、取締役会非設置会社の場合には定時株主総会の1週間前の日から、取締役会設置会社の場合には定時株主総会の2週間前の日から計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を備え置かなければならないので、その日までには取締役決定又は取締役会を開催し、これらの書類を承認しておく必要があります。なお、取締役会設置会社の場合には、監査を受けたものを承認することとされているため(会社法第436条第3項)、この時点までには監査が終わっている必要があります。

上記を行った上で、株主に定時株主総会の招集通知を送付することになりますが、この場合、事業報告と計算書類(監査役設置会社の場合には監査報告書も必要になります。)を添付します。会社法上、招集通知においては附属明細書を添付する必要はありませんが、VC等の投資契約には附属明細書も提供することが義務付けられているケースが多いため、その場合には契約書で定められた時期までに附属明細書も提供する必要があります。招集通知の送付時期については、前記の「(iii)エクイティファイナンスの手続に関して知っておいた方が良いこと」の項目を読んでみて下さい。

また、定時総会の場合、臨時総会と異なり、議決権を有するのは事業年度末日の株主であることが定款で定められていると思いますので注意が必要です。

定時総会で注意してほしい事項の一つとして、役員の任期があります(ついでに定時総会プロパー以外の役員変更関係も説明します)。

まず、任期については、定款で「選任後●年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と定められていることが一般的です(●の中は1~10のどれかの数字が入っていると思います。)。ここで注意しなければならないのは、役員の選任時期によっては意外と早く任期の終わりがくることです。例えば、事業年度が1月から12月の会社で、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と定められている会社において、2020年12月に役員が選任された場合、選任から2年以内に終了している事業年度というのは、2021年1月から12月までの事業年度なので(2022年1月から12月までの事業年度は選任から2年経過時点では継続中)、2022年3月までに開催される定時総会にて任期が切れる(=場合によっては再任が必要となる)点にご注意下さい。すなわち「2年」という数字が書いてあっても、実際には1年ちょっとで任期が切れる場合があるのです。

取締役の任期についてもう一点気を付けておいて欲しいのは、定款では、増員や補欠の取締役の任期を現任の取締役と同じ任期に揃える旨の規定が定められていることが多いということです。例えば、上記の会社において、2020年3月の定時総会において1名しかいない取締役が再任され、2021年3月の定時総会において1名取締役が増員された場合、この2名の取締役の任期は、2022年3月の定時総会終結の際に満了します。なぜこのような規定が定められているかというと、この規定がない場合、2022年3月に1名取締役の任期が終わるのでその時点で再任して登記し、翌2023年3月に1名取締役の任期が終わるのでその時点で再任して登記し、というように毎年再任手続と登記手続が必要になってしまうからです。定時総会で必須の決議事項である、事業報告と計算書類の承認については登記事項ではないため、役員の任期を揃えておくと、登記の手間を省くことができます。登記は手間もかかりますし、役員選任だけでも3万円(資本金1億円未満は1万円)の登録免許税が発生します。なお、取締役とは異なり、増員監査役の任期は、定款によっても、他の在任監査役の任期と同一にするため従来の在任者の残存期間とすることはできないとされています。

少し話は変わりますが、役員選任を株主総会(定時に限らず)で行った場合、その後、取締役会決議か取締役決定が必要な場合が多いので気を付けて下さい。特に取締役会非設置会社の場合、全取締役が代表取締役であるというのが会社法の原則なので、別途定款の定めに沿って互選で一人を代表取締役にしておくなどしないと、想定していない取締役まで代表取締役になってしまう可能性もあります(ここは厳密にいうと、複雑な議論があるので、専門家に相談するようにして下さい)。

あと、役員報酬の額を変更する場合、定期同額給与になるための変更時期の制約があるので(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm 参照)、この点税理士と相談の上決定するようにして下さい。

 

5. ストックオプションについて

スタートアップ・ベンチャーだと、当初から十分な金銭報酬を役職員に付与することは難しいため、ストックオプションの付与を検討する会社が大半だと思います。ストックオプションは法的には「新株予約権」と呼ばれるもので、ざっくりいうとお金を払って株式を取得することができる会社法上認められている権利です。

最近ですと、①税制適格ストックオプション、②有償ストックオプション、③信託型ストックオプションの利用率が高いと思いますので、以下これらについて説明していきたいと思います。

①の税制適格ストックオプションは、無償で付与される新株予約権のうち、租税特別措置法に定められた一定の要件を満たしたものを言います。以下要件について説明します。

まず、付与対象者は、会社または会社の子会社の取締役、執行役又は使用人である必要があります。注意点としては、監査役は税制適格の対象に含まれない点です。少し余談ですが、弁護士は通常社外役員として参画する場合には監査役として参画するため、弁護士は税制適格ストックオプションをもらえないのが通常です。しかし、平成26年の会社法改正により、上場を狙える株式会社の形態として監査委員等設置会社というものができました。監査委員等設置会社の場合「監査委員」が従来の監査役のような役割を担うのですが、「監査委員」は「取締役」が就任するのです。従って、監査委員等設置会社であれば弁護士でも税制適格ストックオプションをもらえると考えられますので、ベンチャーを専門とする弁護士を監査委員にすることを検討している会社で、キャッシュフローは押さえたいので現金報酬は少なくしたいものの、SOは少し多めに出しても良いとお考えの会社があれば私までご一報いただければと思います(冗談ですが、ちょっとだけ本気です)。

次に契約書で以下に定められた要件を規定しておく必要があります。
・新株予約権の権利行使は、その付与決議の日後2年を経過した日からその付与決議の日後10年を経過するまでの間に行わなければならないこと
・新株予約権の権利行使価額の年間の合計額が1200万円を超えないこと
・新株予約権の行使価額が、新株予約権に係る契約を締結した時点における1株当たりの価額に相当する金額以上であること
・新株予約権について、譲渡してはならないとされていること
・新株予約権の権利行使に係る株式の交付がその交付のために付与決議がされた会社法第238条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること
・新株予約権の権利行使により取得をする株式につき、その行使に係る株式会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結されるその株式の振替口座簿への記載もしくは記録、保管の委託又は管理等信託に関する取決めに従い、一定の方法によりその取得後直ちにその株式会社を通じて、その金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託又は管理等信託がなされること。

一杯あって、うへえと思うかもしれませんが、ぶっちゃけスタートアップ・ベンチャーに慣れている弁護士や司法書士なら「税制適格で」とオーダーさえ出せば基本的にはその前提で書類を作成してくれますので、それを顧問税理士に念のためチェックしてもらえば概ね大丈夫だと思います。ただ、「新株予約権の行使価額が、新株予約権に係る契約を締結した時点における1株当たりの価額に相当する金額以上であること」については弁護士や司法書士では確定できないので、検討が必要です。

一般的な行使価額の金額の決定の仕方としては、(i)株価を算定してもらう、(ii)前のファイナンス等のバリュエーションに合わせて発行する、の二つが主流だという認識です。(i)は分かりやすく証跡を残すことができますが、お金がかかります。優先株を発行しているような会社だと三桁万円かかることもあるとの認識です。

(ii)はどういうことかと言いますと、例えばシリーズAのファイナンスを1株5万円で行った場合、その後に発行するストックオプションの権利行使価額も5万円にしてしまうということです。シリーズAと同時にストックオプションの発行をすることはほとんどないので(ファイナンスで得たお金で採用活動を行った後にストックオプションを付与することが多いので)、少し期間は空いてしまいますが、通常スタートアップ・ベンチャーだとJカーブを描いているので、赤字を出している状態だからそこまで株価は上昇していないだろうと考えられること、そもそも優先株の場合には、A種優先株式の株価よりも、普通株式の方が安いと考えられるため、多少のバッファがあることなどから、多少期間が空いたとしても、少なくとも発行時点における「普通株式の時価以上」であると考えられることが多いと思われます。ただ、次のファイナンスが見えており、また、その金額も概ね決まっているような場合には、前のファイナンスのバリュエーションを使用するようなことはリスクがあるような気はします。色々と語ったものの、この点は法律マターではないため、最終的には顧問税理士等とご相談の上決定いただくようお願いいたします。

②の有償ストックオプションは、時価で新株予約権を発行するものです。①でも時価で発行と言ってたじゃないかと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、①における時価というのは普通株式の時価で、その時価以上に行使価額をしなければならないという意味で、②の時価は株式ではなく予約権そのものの時価を意味しております。

②の有償ストックオプションのメリットは、税制適格ストックオプションの対象とならない者に対しても、税制上のメリットのある新株予約権を発行できることです。すなわち、監査役だったり外部協力者だったりに対しても、譲渡所得のみが課税される新株予約権を発行することができます。あとは3分の1以上株式を持っている代表取締役に発行しているケースもたまに見ます。

デメリットとしては、まず、付与対象者がお金を払わないともらえないという点があげられます。算定の結果次第ではまあまあな金額になることもあるので、付与対象者にとってそれなりに負担となる可能性もあります(この点は、お金を出すことで当事者意識が生まれるというメリットでもあるかもしれません。)。あと、①よりも通常お金がかかるとの認識です。新株予約権の場合には、ブラックショールズやモンテカルロといった格好良い名前のついた計算式で予約権の価値を計算するのですが、これらの前提として株価を計算する必要があるため、その時点で①と同等以上の工数が発生すること、また、これらが難解であるため、その分専門家の費用がお高くなるとの認識です(この点は専門外なので、もしかしたら間違ってるかもしれません。)。

ちなみに①のストックオプションを取締役に発行する場合には、報酬決議を経ておく必要があるのですが、②の場合には対価を払い込んでいるため、報酬決議は行っていないとの認識です。但し、会社法との関係では、有名な弥永先生という方が、報酬決議が必要な可能性があるのではと述べておられるので、個人的には少し悩ましいところではあります。ただ、もしIPO審査等で何か言われた場合には、追認で報酬決議やればよいかなと思うところでもあります。

③の信託型ストックオプションは、②の有償ストックオプションの一種なのですが、最初の時点では従業員等に割り当てず、受託者にストックオプションを預けて(信託して)、上場後にそれまでの貢献に応じてストックオプションを配るというスキームです。

①や②の場合、従業員等に付与する瞬間の時価を使用しなければならないところ、会社が成長するに従って時価もどんどん増加していくことから、後から入ってくる従業員等に対して同じ量のストックオプションを付与しても、インセンティブが弱くなってしまうからです。分かりやすくするために敢えてもの凄く雑な説明をすると、時価総額が100億円で上場すると仮定した場合、時価総額10億円の時にSOをもらった人は90億円分の企業価値上昇分の恩恵を受けられるのに対し、時価総額80億円の時にSOをもらった人は20億円分しか企業価値上昇の恩恵を受けられません。

一方、信託SOは時価総額10億の時にSOを発行しておけば、時価総額80億円の時に入社した人も時価総額10億円からの企業価値上昇分の恩恵を受けることができるというメリットがあります。

それだけ聞くと信託SOを使わない理由がなさそうにも思えますが、一番のデメリットはコストです。業者によっても金額は様々ですが、最低でも数百万、四桁万円かかることも珍しくないという理解です。また、信託SOだと、実際に配られるまで自分にどれだけもらえるかが分からないため、三顧の礼をもって迎えるような幹部などに対しては、税制適格SOなどを併用して付与しているケースが一般的との認識です(最近は、信託SOの場合でも一部は途中で付与できるような設計となっているケースもあるとの認識ですが、当該設計で税務等の問題が生じないのかは現時点では私としては判断できていません。)。なお、信託SOについては、当初の設計が適切にできていなかったために、問題が生じたというケースもいくつか聞き及んでいますので、発行する場合にはきちんとした実績があるところに依頼した方が良いと思います。

 

6. その他コーポレート関係で知っておいた方が良いこと

気を付けなければならないことは無限にあるので、全ては書ききれないのですが、よく問題となりそうな点を思いつくままに書き殴っていきたいと思います。

(1)監査役の報酬は取締役会に委任できない

監査役の報酬は株主総会決議で決めますが、具体的な金額は総会で決定せず枠だけ決めることも多いです。ここで、取締役の報酬の場合には、株主総会で枠をとった後、取締役会(又は取締役か代表取締役)が具体的な金額を決定するということも可能ですが、監査役の場合には、具体的な金額は監査役が決定するというルールになっています。従って、枠をとる際は不用意に上限を大きな金額とせず、実際に支払う金額に近い金額を設定しておきましょう。

(2)株主総会議事録に誰が押印するか

取締役会議事録については会社法上参加した取締役と監査役が押印することになっていますが、実は株主総会議事録には誰が押印するかの規定はありません。なので、定款に特に定めがない場合には代表取締役のみが押印しているケースが多いです。

気を付けなければならないのは定款で押印義務者が定められている場合です。例えば、出席取締役が押印すると定められていれば、出席取締役全員の押印が必要となりますので、気を付けましょう。なお、上記のとおり会社法上はこのような押印は要求されておらず、取締役の人数が増えると押印手続も大変になることから、そもそも設立の際にこのような規定は定めない方がよく、既にこのような規定がある場合には他の株主総会決議を行う場合に削除してしまうことも考えられます。

(3)特別利害関係取締役のチェックを忘れないように

会社法第369条第2項は「前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。」と定めており、特別利害関係取締役は決議に参加できないこととされているので、特定の議案について利害関係を持つ取締役がいる場合には注意が必要です。

スタートアップ・ベンチャーでよく忘れがちなのは、VC等の投資家から投資を受けて当該VC等から取締役の派遣を受けている状況において、当該投資家から追加調達するような場合です。派遣されている取締役が直接の契約当事者でなくてもファンド(又はファンドのGP)の代表を務めているような場合には特別利害関係取締役として決議に参加できないと考えられるため、この点は気を付けるようにして下さい。弁護士もそこまではチェックが及ばないケースがあると思いますので、会社でチェックしておいた方が良いです。この場合、利益相反取引としての決議を行うことになりますので、忘れずに行った上で議事録に記載しておきましょう。

 

7. おわりに

色々と書いてきましたが、ここに書いてあるのは特に知っておいて欲しい事項であり、また、最初に書いたとおり敢えて書いていないこともあります。また、法律の改正も頻繁にあり、また、ファイナンスの手法などは日進月歩でもあるため、ここに書いてあることが古くなってしまうことも多々あると思います。

従って、具体的な案件等があった場合には、是非当事務所にお気軽にご相談いただければと思います。基本的には紹介メインで案件をお受けしているのですが、無料相談は紹介がなくとも対応可能ですので、是非無料相談もご利用下さい。詳細は下記のURLの一番下に記載されています。

プロコミットパートナーズ法律事務所の無料相談ページはこちら

もちろん顧問契約の申込みなども随時受け付けております。最初の方で記載したとおり、商業登記手続も対応しておりますので、顧問契約で依頼できる分で商業登記もご依頼いただくことが可能ですので、顧問料が無駄になりづらいです。

最後固くなってしまいましたが、本記事が、少しでも多くのスタートアップ・ベンチャーの皆さんのお役に立てれば幸いです!

ベンチャー・スタートアップの方は注意!令和4年6月施行改正特定商取引法について

プロコミットパートナーズ法律事務所弁護士の副島です。

特定商取引法に関する法律(以下、「特商法」といいます。)の一部を改正する法律案が令和3年6月9日に成立いたしました。改正された特商法の項目のうち、影響が大きいものとして、通信販売における詐欺的商法への対策があり、令和4年6月1日から施行されます。サイトを運営されているなどで、通信販売を行っている事業者の方は、「特定商取引法に関する表記」をサイト上に掲載されているはずです。この「特定商取引法に関する表記」を掲げているサイトを運営されている事業者の方は本改正の影響を受け、これから下記解説する改正法に対応する必要があります。

もし、自社サイトが改正特商法に対応しているか不安である方、改正特商法の内容についてご疑問点がある方は、弊所の「お問い合わせ」からご質問いただければ迅速にご対応させていただきます。弊所は、ベンチャー・スタートアップの事業活動の支援を中心に行っており、今回解説する改正特定商取引法についても、多数対応している実績があります。

さて、通信販売における詐欺的商法への対策として設けられた通信販売の申し込み段階における表示についての規定(改正特商法第12条の6)について、解説します。

 

1.改正特商法第12条の6の内容

令和3年改正特商法は、近年問題となっていた悪質な定期購入商法への対策が盛り込まれています。悪質な定期購入商法の主な手口として、「初回無料」や「お試し」との表示があるのに実際には定期購入が条件となっていたり、「いつでも解約可能」との表示があるのに実際には解約には細かい条件があるなどが問題視されてきており、定期購入に関する消費者生活相談の件数は、2015年には4,141件であったのが、2020年には59,560件と大幅に増加し、社会問題となりました。このような事態を受けて、改正特商法においては、通信販売の申込段階において、①基本的な事項の表示の義務づけ、②誤認させるような表示の禁止が義務付けられました。

 

2.表示しなければならない事項について(改正特商法第12条の6第1項)

事業者は、申込書面又は最終確認画面において、次の事項を表示しなければならなくなります。なお、最終確認画面とは、消費者がその画面内に設けられている申込みボタン等をクリックすることにより契約の申込みが完了することとなる画面のことを指し、広告や注文内容の入力から注文内容の確認までが、画面の遷移を経ることなくスクロールによって一連の画面として表示されるような場合には、最終的な注文内容の確認に該当する表示部分が最終確認画面にあたります。また、契約の申込み内容の確認画面の後に、クレジットカード情報等の決済に必要な情報の入力等の手続きのみ別の画面に遷移して行い、決済事業者による承認が完了した段階で契約の申込みが完了するような仕様の場合には、当該遷移をする前の、契約の申込み内容の確認画面が最終確認画面にあたります。

(1)販売する商品・権利若しくは提供する役務の分量

  • 販売する商品等の態様に応じた、その数量、回数、期間等。
    例:「キッズ用サンダル(柄A) 数量1個」
     :「オンライン講座 回数10回」
  • 定期購入契約において、各回に引き渡す商品等の数量と引渡しの回数
    例:「初回●個、2回目以降は●個」といった具体的な数量を示す必要があります。
  • サブスクリプションにおいて、商品等の提供期間や期間内に利用可能な回数が定められている場合にはその内容。
    例:「本コースは、3カ月の間に10回まで利用することができます。」
  • 消費者が解約を申し出るまで定期的に商品等が提供される無期限の契約やサブスクリプションの場合、その旨を表示することに加え、1年単位の総分量など一定期間を区切った分量を目安として表示することが望ましい。
    例:「本コースは定期購入契約です。お客様から解約の御連絡がない限り、商品が毎月送付されます。」
      「参考:1年分の総分量12箱。総額●円」
  • 自動更新のある契約は、その旨。
    例:「本コースは、お客様から解約の御連絡がない限り、お手続き無く、自動的に契約が更新されます。」
  • 同一商品等で内容分量の異なるものを販売しているときは、消費者においてそれを明確に区別できるよう、商品等名に併記する表示を行うのが適切とされる。
    例:「乾電池(5個入り)」、「乾電池(10個入り)」

(2)商品・権利の価格、役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)

  • 複数の商品等を購入する場合には、個々の商品等の販売価格及び支払総額。
    例:大人用サンダル(柄A) 商品価格2,200円(税込)
      キッズ用サンダル(柄B)商品価格1,100円(税込)
      お支払総額:3,300円(税込)
  • 送料がある場合は、実際に消費者が支払うこととなる金額
    例:大人用サンダル(柄A) 商品価格2,200円(税込)
      キッズ用サンダル(柄B)商品価格1,100円(税込)
      送料:300円(税込)
      お支払総額:3,600円(税込)
  • 定期購入契約において、消費者が支払う各回の代金と総額。各回の代金については、初回と2回目以降の代金が異なる場合には初回の代金と2回目以降の代金額。
    例:「初回●円、2回目以降●円。総額●円」
  • 無償又は割引価格で利用できる期間を経て有償又は通常価格の契約内容に自動的に移行する契約の場合は、有償又は通常価格への移行時期及び支払うこととなる金額。
    例:本商品は初回のみ無料であり、2回目以降は通常価格となります。
  • 消費者が解約を申し出るまで定期的に商品等が提供される無期限の契約やサブスクリプションの場合、その旨を明確に表示することに加え1年単位の総分量など一定期間を区切った分量を目安として表示することが望ましい。
    例:「本コースは定期購入契約です。お客様から解約の御連絡がない限り、商品が毎月送付されます。」
      「参考:1年分の総分量12箱。総額●円」

但し、申込み段階において販売価格や送料を確定させることが困難な場合など、特段の事情がある場合に限り、販売価格や送料等の表示に代えて、その確定後に連絡する旨などの表示をすることも可能とされています。

(3)商品・権利の代金又は役務の対価の支払時期及び方法

  • 支払期限の具体的な日時。
    例:「商品に同封する請求書により、商品到着後7日以内のお支払いとなります。」
  • 定期購入契約の場合は、各回の代金支払時期。
    例:「クレジットカードにより、毎月1回分のお引き落としになります。」
  • 銀行振込、クレジット等の支払方法。
    例:「クレジットカード払い(一括)若しくは、商品に同封する請求書による銀行振込になります。」
  • 金融機関、コンビニエンスストア等で振込みや支払手続きが必要な場合は、前払いと後払いのいずれであるかの明示。
    例:「コンビニ後払い。請求書到着後7日以内のお支払いとなります。」

(4)商品等の引渡時期又は役務の提供時期

  • 期限や期間
    例:「日時指定済み:●月●日14時~16時」等。
  • 定期購入契約の場合は、各回の商品等の引渡時期。
    例:「お届け時期:初回は御注文の完了から4日以内。2回目以降は、前回発送日から起算して1か月が経過する日に発送となります。」

(5)商品・権利の売買契約又は役務の提供契約に係る申し込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及び内容。

  • 商品等の販売等そのものに係る申込期間を設定する場合(購入期限のカウントダウンや期間限定販売など)、申込期間に関する定めがある旨とその具体的な期間。
    例:「期間限定商品。お申し込みは●月●日まで」

(6)契約の申込みの撤回又は解除に関する事項

  • 商品等について、返品特約がある場合はその内容。
    例:「本商品は、商品到着後7日以内であれば返品が可能です。ただし、不良品の場合を除き、返送費用はお客様の負担となります。」
  • 役務提供の場合は、申込みの撤回の可否やその方法等。
    例:「本コースは受講前に限り、ウェブサイトのマイページ内でのお手続きにより、お申し込みのキャンセルが可能です。」
  • 定期購入契約の場合、解約の申出に期限がある場合には、その申出期限。
    例:「契約期間途中で解約をご希望される方は、商品発送の5日前までに、お問合せ窓口にご連絡ください。」
  • 解約に違約金その他不利益が生じる契約である場合にはその旨及び内容。
    例:「契約期間途中での解約の場合、解約手数料として3,000円が発生いたします。」
  • 解約方法を特定の手段に限定している場合は、その内容。
    例:「キャンセル・返品については、お電話でのみ受け付けております。解約手続用窓口:(電話)XX-XXXX-XXXX」
  • 解約方法を電話による受付けとしている場合には、確実につながる電話番号。

 

3.「人の誤認させるような表示の禁止」(改正特商法第12条の6第2項)について

(1)当該手続きに従った情報の送信が通信販売に係る売買契約又は役務提供契約の申込みとなることにつき、人を誤認させるような表示(改正特商法第12条の6第2項第1号)

最終確認画面における情報の送信について、それが有償の契約申し込みとなることを消費者が明確に認識できるようにしていない表示は禁止されることになります。例えば、申し込みにおいて「無料プレゼント」等の文言を強調することにより、有償の契約の申し込みであることが分かりにくい場合には、消費者を誤認させる恐れがある表現になり、注意が必要です。

また、ネット通販の申し込み画面において、「注文内容の確認」といった表題の画面上に「申込みを確定する。」といったボタンが表示されており、それをクリックすれば申込みとなることが明らかな場合には一般に消費者を誤認させる恐れがないといえますが、一方で「送信する」「次へ」といったボタンが表示されており、画面上の他の部分でも「申込み」であることを明らかにする表示がない場合などの場合、当該ボタンをクリックすれば何らかの情報発信がなされ、次の画面に進むことは把握できたとしても、それが売買契約の申込みとなるものと明確に認識できないような場合には、消費者を誤認させる恐れがあると考えられます。

(2)改正特商法第12条の6第1項各号に掲げる事項につき、人を誤認させるような表示

最終確認画面においては、特商法上の表示事項を表示しており、それが不実の表示ではないものであったとしても、その意味内容を誤認させるような表示は禁止されます。

「人を誤認させるような表示」に該当するか否かは、その表示事項の表示それ自体並びにこれらが記載されている表示の位置、形式、大きさ、色調及び他の表示と組み合わせてみた表示の内容全体から消費者が受ける印象等を総合的に見て、判断されます。

例えば、定期購入契約において、最初に引き渡す商品等の分量やその販売価格を強調して表示し、その他の定期購入契約に関する条件を、それに比べて小さな文字で表示することや離れた位置に表示していることなどによって、引渡時期や分量等の表示が定期購入契約ではないと誤認させるような場合には、「人を誤認させるような表示」に該当するおそれがあいます。

特に、「お試し」、「トライアル」などを殊更に強調する表示は、一般的な契約と異なる試行的な契約である、又は容易に解約できるなどと消費者が認識する可能性が高いため、これに反して、実際には定期購入契約となっていたり、解約に条件があり容易に解約できない場合には「人を誤認させるような表示」に該当する恐れがあります。他にも、「いつでも解約可能」などと強調する表示は、消費者が文字通りいつでも任意に指定する時期に無条件で解約できると認識するため、実際には解約条件等が付いているにかかわらず、「いつでも解約可能」などの表示をした場合には、「人を誤認させるような表示」に該当する恐れがあります。

 

4.「顧客の意に反して通信販売に係る売買契約又は役務提供契約の申込みをさせようとする行為」(改正特商法第14条第1項第2号)について

本条で具体的に問題となる行為として、「販売業者又は役務提供業者が、電子契約・・・の申込みを受ける場合において、申込みの内容を、顧客が電子契約に係る電子計算機の操作・・・を行う際に容易に確認し及び訂正することができるようにしていないこと」(特商法規則第16条第1項)とされています。この「容易に確認し及び訂正することができるようにしていないこと」とは、最終確認画面において、①消費者が契約の申込みに係る内容を容易に確認できるように表示していること、②その内容を容易に修正できる何らかの手段が設けられていることを指すとされています。具体的には、注文内容を訂正するための手段(「変更」、「注文内容を修正する」、「前のページへ戻る」)などのボタンが提供されていない場合には、「容易に確認し及び訂正することができるようにしていないこと」に当たる可能性があると考えられます。

 

5.改正特商法第12条の6に違反した場合

(1)契約の取消権

表示した事項が不実であった場合、表示すべき事項を表示しなかった場合、申込みや表示事項について誤認させるような表示をするなどの違反をし、消費者が誤認して申込みを行った場合は、消費者は当該契約を取り消すことができます。(改正特商法第15条の4)。

(2)罰則

改正特商法第12条の6第1項の規定に違反して、表示事項を表示せず、又は不実の表示をした場合は、違反者個人に対して3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(併科あり)、違反法人に対しては1億円以下の罰金が科されます(改正特商法第70条第2号、第74条第1項第2号。)。

また、改正特商法第12条の6第2項の規定に違反して、消費者を誤認させるような表示をした場合は、違反者個人及び違反法人に対して100万円以下の罰金が科されます(改正特商法第72条第1項第4号、第74条第1項第3号。)

 

6.終わりに

実務としては、消費者庁によりガイドラインが公表はされているものの、具体的にどのような記載・文言にすれば適法となるのかの判断に悩まれるケースは多いのではないでしょうか。

改正特商法第12条の6第1項において求められている表示事項の記載不備は、取消権等が発生する可能性もあるため、改正特商法は確実に対応しておく必要があります。この対応においては、法律の文言やガイドライン例から画一的に考えるのではなく、消費者目線に立ってサイト全体の表示が適切であるかどうかという視点から見直しを進めていくのが重要であると考えます。

明日から使える!?現役弁護士が教えるミスの少ない文章作成テクニック

プロコミットパートナーズ法律事務所代表弁護士の長尾です。

このブログでは、スタートアップ・ベンチャー企業の皆様に役立つような情報をメインに書いていきたいと思います。
できれば月に2本くらいを書ければと・・・仕事に追われて三日坊主になる未来が用意に想像できるので、1本あたりの記事にそれほど気合を入れず、気軽に読めてちょっと役に立つようなブログを目指していきたいと思います。

第一回目は、「弁護士として仕事のクオリティを高めるために、自分でやっているテクニック」のようなものをお伝えしたいと思います。

 

ミスのない書類作成は難しい?

企業法務の弁護士の業務の大半は文章作成に費やされているといっても過言ではありません。
契約書関係の業務を筆頭に、クライアントからの質問への回答、裁判関係の書類作成、議事録等のコーポレート関係の書類作成、意見書の作成等、一日のうちでかなりの時間文書を作成しています。

この書類作成ですが、ミスなく書類を作成するのは弁護士でも至難の業と言えます。
弁護士が作る書類なんてミスがないのが当たり前だと思うかもしれませんが、ミスのない書類をコンスタントに作成できるようになるにはかなりの経験が必要となります。

ミスのない書類作成を行うためには、最終的には経験がものをいう面もありますが、いくつかテクニックを使うことで確実にミスを減らすことは可能です。以下、いくつかお伝えさせていただきます。

 

できる限りコピー&ペーストするようにする

なぜコピー&ペーストを推奨するかというと、手打ちでタイピングすると、

(1)文字を打ち込み間違えるリスク
(2)変換の際に間違えるリスク

の2重のリスクがあるためです。(1)については特に住所のようなものの場合、一文字抜けてもかなり気がつきにくいといえます。
また、(2)については、日本人で「渡辺」「渡邉」「渡部」「渡邊」を間違えたことがない人を探す方が難しいのではないかと思います
(あと、「郎」と「朗」とかも人をひっかけるための悪意のようなものを感じますよね。)。

そのため、特に固有名詞や法律の条文については、可能な限りコピー&ペーストをするように心がけています。

 

信頼できる情報ソースを確認し、まとめておく

上記のとおりコピー&ペーストを推奨するのですが、そもそもコピー&ペースト元が間違っていたらどうしようもありません。
そのため、特に議事録作成等のコーポレート関係の仕事を行う場合には、まず、信頼できる情報ソースを元にクライアントごとに固有名詞をまとめたファイルを作っておきます。

議事録等でよく使用する情報としては、会社の社名・住所、代表取締役の氏名・住所、取締役の氏名等があげられるので、これらをワードやエクセルでまとめておきます。

ここで大事なのは、登記簿謄本等の信用できる情報ソースを元にまとめることです。

例えば株主名簿にも同様の情報が記載されているかもしれませんが、株主名簿は人が手打ちで作っている可能性があるため、その情報には誤りがあるかもしれません(厳密にいうと登記簿謄本にも間違いがある可能性も否定はできませんが、可能性はかなり低いといえます。)。

従って、登記簿謄本等のような公的なものを元にまとめることが重要です。
なお、登記簿謄本の場合にはコピペはできないので、それを転記した後は、一文字ずつ印をつけながらチェックするなどしておきましょう。
ものすごく面倒なようにも思えますが、特に議事録等で固有名詞に間違いがあったりすると、場合によっては登記が通らないなどの問題も生じてしまいますので、それを考えるとこのくらいの手間をかける価値はあると思います。

 

契約書関係の業務にはワードの機能をフル活用

ミスのない契約書作成や契約書レビューを行うためには、ワードの機能をフル活用することが必須といえます。
おそらくスペルチェックや表記ゆれの機能は皆さん使用していると思いますが、それ以外にも以下のような使い方でミスを減らすことができます。

 

検索機能

検索機能は契約書関係の業務の場合には必須だと思っています。
契約書上では、「第8条第2項第3号に定めるとおり」といった表現がありますが、これはミスが生じやすいところです。

つまり、元々はこの規定が正しくとも、契約交渉の過程で第7条が削除されてしまったような場合、条文が一つずつ繰り上がることから、当該箇所は「第7条第2項第3号に定めるとおり」と直さなければなりません。

従って、契約書を修正したような場合には、最後に「条」「項」「号」というワードで全体を検索し、修正漏れが生じてないかを確認しましょう。

 

比較機能

契約交渉が長引いたような場合、「比較」の機能は必須だと思っています。
投資案件やM&A案件のような場合、契約書類にそれなりのボリュームが出ることとなるため、必然的に交渉回数も増えます。
この場合、変更履歴が入り乱れることとなり、前回からどこの点に変更が入ったのか非常に見落としやすくなってしまいます。そこで、このような場合には、前回の契約書のバージョンと今回の契約書をワードの機能で「比較」しましょう。

そうすることによって、前回から修正が入った部分のみに変更履歴が付されたファイルが作成されるので、修正されていたことに気が付かなかったといった事態を防ぐことができます。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。初回にもかかわらず、スーパー地味な内容となってしまいましたが、弁護士としてミスをしない仕事をするためには、細かい工夫の積み重ねが必要なんだということが少しでも伝わればと思います。
この他にも色々とあるのですが、パッと思い出せないのと、初回で飛ばしすぎると後がなくなるので、今回はこれくらいにしておきたいと思います!

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