1. ハイブリッドレビューのローンチ
2. 生成AIによるレビューの個人的な評価
3. それでもローンチに至った理由
4. 既存の当事務所のサービスや契約との関係について
5. 法務における生成AIの利用についての私見と当事務所の今後について

1. ハイブリッドレビューのローンチ
告知させていただきましたが、この度AIのレビューに弁護士のレビューを加えてクライアントの皆様に成果物を提供する「ハイブリッドレビュー」をローンチいたしました!プレスリリースなどは別途出していますが、このブログではなぜ提供に踏み切ったのかといった点やサービスの詳細について、少し本音を交えて説明できればと思います。
なお、一口に「生成AI」といっても、ChatGPTのようなLLMそのものだったり、それを利用して作られているリーガルテックのサービスだったりと色々とあると思うのですが、そのあたりを細かく区別して書くとノウハウとかが流出してしまうのではといった懸念があるため、以下では敢えて区別せずざっくりと書かせてもらえればと思います。また、同様の理由で「生成AIにはこういう問題がある」といった箇所について、「この生成AIをこういった方法で使えば避けることができる」という対策があったとしても、敢えて触れないでいる部分があります。
2. 生成AIによるレビューの個人的な評価
ハイブリッドレビューをローンチした理由はいくつかあるのですが、まずはシンプルに生成AIの能力が向上してきているということが挙げられます。このブログを読んでくれている人の多くはハイブリッドレビューの利用を検討しているスタートアップ関係者の方が多いのではないかと思いますが、最近の生成AIの発展はまさに日進月歩で、この間までできなかったことがすぐできるようになっていくというのは多くの方が感じているところではないかと思います。
ただ、法務に関しては(少なくとも日本では)、正直相対的には有用性の向上の度合いが遅いのではと思っています。ハルシネーションの存在が他の分野よりも致命傷になりやすいという性質もさることながら、唯一の正解が存在しないケースが多いことが理由の一つとして挙げられると思います。また、世界的に見れば、英語などの言語と比較して日本語の使用者は少なく、人口の割合に占める弁護士の数も少ないことから、有用なデータを集めることも比較的難しいのではと思っています。
特に契約書に関しては、明確な正解がない分野だと思います。相手方がいる以上、こちらの要望が全て通るわけでもないため、把握したリスクのうち、どの点を、どのような範囲で、どのような理由で相手方に修正して欲しいと相手方に伝えることになりますが、これには無数の選択肢があることになります。また、一度先方に修正案を送った後のフィードバックについて、どの点をそのまま飲むのか、飲まないとして前回案をそのまま打ち返すのか、妥協案を出すのかなど、交渉の各段階においても様々な判断が求められます。
生成AIによるレビューも急速に進歩を遂げているとは思うのですが、上記のような複雑なフローにおいて、最終的にどこが法的に絶対に譲るべきではないのか、ビジネス判断として受け入れてよいかといった判断を明確にしてくれるようなアドバイスを常に得られるとは現時点では到底思えない状況だと個人的には思っています。
一方で、契約書レビューにおいて生成AIが人よりも圧倒的に優れている点は一次成果物を出すまでのスピードだと思います。このアドバンテージを生かさない手はないだろうと考えたのがハイブリッドレビューローンチのきっかけの一つです。つまり、生成AIのレビューが70点の成果物を作ってくれるのであれば、それに弁護士がある程度手を加えることにより、今までよりもはるかに少ない弁護士の工数で成果物を出すことができ、安く早くレビュー結果を提供できるのではという発想です。
上記には二点補足があります。
一つ目は、生成AIが70点のレビューを出してくれるという点ですが、これは単体で見て70点の出来のものを常に提供してくれるという意味ではありません。どういうことかというと、生成AIによるレビューの場合、たまに致命的な間違いが入っていたり、クリティカルな論点を指摘しないというケースがあります。例えば、受託開発の案件だと損害賠償の範囲や上限の設定は検討が不可欠だと思いますが、生成AIのレビューの場合、こちらの賠償義務を限定しなければならないのに相手方に設定したりとか、そもそも修正・コメントが入らないといったケースが稀に起きます。従って、生成AIのレビューだけだと、元の契約よりもトータルでこちらに不利になってしまうといったケースが起き得ます。70点程度の出来というのは、全体の工数のうち70%くらいはAIが作業してくれるというのが私の経験に基づく実感です。
二つ目は、生成AIのレビューを元に弁護士の手を加えて成果物を作る場合において、従前の法律事務所が提供していたものと同レベルのものを作ろうとすると、そこまで安く早くレビュー結果を提供することは難しいということです。というのは、企業法務を専門にする法律事務所の場合、品質を担保するため、二人以上の弁護士によるチェック体制がとられることが良いのではないかと思います。この場合、最初に若手の弁護士がレビューをし、そのあと、案件に応じてそれより上のランクの弁護士が何名かチェックして完成させるという流れをとるのが一般的ではないかと思います(当事務所だとアソシエイト弁護士1名がレビューして、パートナー弁護士1名がチェックして出すというケースが多いです。)。当然ですが、若手の弁護士とは言っても、司法試験に合格し、日々企業法務の案件を取り扱っている専門家ですので、そのアウトプットのクオリティは高いです。生成AIが70点だとしたら85~95点くらいのものはコンスタントに出してくれることが通常ではないかと思います。
しかし、85~95点くらいのものをアソシエイト弁護士が出してくれたとしても、5%程度の差を埋めるためにはある程度パートナー弁護士の時間を割く必要があります。85~95点くらい出来ている契約書の残りの差分というのは、優秀なアソシエイト弁護士が見落としてしまうような細かい点だったりするので、それに気が付くためには経験の豊富なパートナー弁護士といえどもある程度時間をとって集中して契約書を読み込む必要があるからです。
同様に、生成AIが70点のものを出してくれたとしても、工数が70%節約されるわけではありません。なぜなら、生成AIの70点分の作業は比較的気が付きやすい部分が多く、残りの30%は優秀なアソシエイト弁護士や経験のあるパートナー弁護士がそれなりに時間を割かなければ気が付かない部分だからです。加えて、生成AIがどこを間違えているか分からない以上、全体を見なければならず、また、生成AIが修正を加えた場所については、特にこちら側にとってマイナスの修正がなされていないかを慎重に確認する必要があります。
従って、本当の意味で弁護士のレビュー結果と同じレベルまで引き上げようと思った場合、そこまで弁護士の工数が減らせるかというとそうでもないと思っています。
3.それでもローンチに至った理由
では、なぜハイブリッドレビューをローンチしようと思ったかと言えば、「そこまでクオリティが高くなくて良いので、早く安く契約書のレビューを出して欲しい」といったニーズが非常に高いからです。
このニーズは認識していたものの、一方で、「クオリティが高くなくて良い」と言われた場合にどこまでクオリティを下げてよいかの判断が非常に難しいという問題があります。「アソシエイト弁護士」という立場は、基本的にはまだ完全には独り立ちできていないという建前のポジションなので、その立場の弁護士に丸投げしてしまうのはパートナー弁護士としての意思決定としては難しく、一方で、パートナー弁護士が見てしまうと、やはり気になる部分や指摘せざるを得ない点が出てきてしまって、結局通常のレビューとそこまで変わらない工数が発生してしまうというのが従前の状況でした。
一方で、生成AIがそれなりのクオリティを出してくれるようになったことで、こちらとしては生成AI+アソシエイト弁護士なら、「そこまでクオリティが高くなくて良い」場合のクオリティは満たせると判断できる状況になったと考えています。
また、生成AI+アソシエイト弁護士だから安く早く出していると事前に説明していることで、通常よりも広い免責とさせていただくことに理解が得られやすくなっただろうという点もあります。今までにそういうケースがあったわけではありませんが、「そこまでクオリティが高くなくて良いので、早く安く契約書のレビューを出して欲しい」と言われていたとしても、やはりその契約で大きな問題が生じた場合には、「弁護士としてこの程度時間をかけていたならこの程度のリスクは気づいてしかるべきではないか。」といったクレームが来てもおかしくないのではと思います。
加えて、特にステージが進んでいない(資金に余力がない)スタートアップの場合、既に生成AIにレビューを頼んでいるという話を聞くことが多くなってきたからです。正直なところ、素人が生成AIを使って契約をレビューした場合、先ほど述べたような、むしろマイナスになってしまうような状況すらあり得るため、これは望ましい状況ではないと思っていました。そのため、そのような状況を放置するくらいならむしろ自分達でやってしまった方がいいのではと思って始めたということもあります。
4.既存の当事務所のサービスや契約との関係について
ハイブリッドレビューは、既存の当事務所のサービスと完全に併存するもので、これまでのサービスはこれまで通り存続します。また、ハイブリッドレビューは顧問契約による割引の対象となります。顧問契約の内容はhttps://pcpl.jp/fee/をご参照下さい。
また、ハイブリッドレビューは定額である以上サービス内容は限定されていますが(例えば、一度こちらからレビュー結果を返した後の追加での質問や修正依頼は限られた回数のみご依頼いただくことが可能です。)、その範囲のサービスを受けた後、さらに気になる点があった場合については、通常の顧問契約やスポット契約に従って修正等の対応をさせていただくことはもちろん可能です。
今回のハイブリッドレビューのローンチで、今までの当事務所のサービスではカバーできていなかった範囲について少し対応できたのではないかと思いますが、まだスタートアップのニーズを完全にカバーできているとは言えないとも思っています。
5. 法務における生成AIの利用についての私見と当事務所の今後について
個人的には生成AIはパソコンとインターネットに次いで、弁護士業務を遂行する上で欠かせないツールになると思っています。ただ、逆に言えばツールの一つにすぎず、これによって弁護士のニーズが完全になくなるとは現時点では思っておりません(10年後、20年後はどうなるかわかりませんが。)。現時点では、法律の知識や思考方法がないと、法務において生成AIを使いこなすのは無理ではないかと思います。単にハルシネーションに気づくことができるかというのもそうですが、契約書のドラフトやレビューを生成AIに効率よく作ってもらうためには、自分でそれを作れるレベルにないと、指示を正確に出すことができないと考えられるためです。
ただ、パソコンとインターネットと並ぶツールということになると、これを使えない弁護士という存在はゆるやかに淘汰されていくのではと思っているので(ただ、分野ごとのトップ弁護士は生成AIで代替できるレベルではないとも思っています。)、積極的に活用していきたいと思います。
今、生成AI絡みでもう一つ新サービスの準備を考えています。既存の顧問契約等とハイブリッドレビューでカバーできていないニーズをカバーできるものではないかと思いますので、是非そちらも楽しみにしておいていただければと思います!
※「ハイブリッドレビュー」は、プロコミットパートナーズ法律事務所が商標登録出願中の商標です。